2015年国連総会で採択されたSDGs (エスディージーズ)は、持続可能な開発目標としてわが国でも大きな関心と広がりを見せている。
経団連においても、『Society(ソサエティ)5・0 for SDGs』といったコンセプトを提唱・推進し、大手企業を中心にSDGsへの取り組みが行われている。 また、最近では「SX (サステナビリティ・トランスフォーメーション)と言う言葉が台頭し、『DX(デジタルトランスフォーメーション)よりも重要な概念である』との触れ込みもあり、企業経営の変革として急速な広まりを示している。『SDGs』『Society 5・0』『SX』など、この取り組みを実施する大企業を中心に、世の中がこの方向に変革するのも間違いのないことである。 ところが残念なことに、中小製造業の経営者はそれほど強い関心を抱いていない。
当社が実施した中小製造業対象の実態調査では、①SDGs②Society 5・0③SXの3つを全て理解されている経営者は、100人中のたったの4人。『言葉は聞いたことはある』と答えた経営者は30人弱であった。100社程度の少ない調査なので、全てを表しているとは言い難いが、中小製造業の70%に知られていないのは衝撃的な事実である。一方で、IoT・DXは、中小製造業でも大きな関心事である。先程の調査対象の企業において、100%近くの企業がIoT・DXを『経営に必要な道具である』との認識を示しており、 特に『すぐにでも導入検討したい』との企業が50%を超える結果が出た。当社の調査なので、一般的な平均値よりもポジティブな結果が出ることは推測がつくが、 それにしてもIoT・DXへの関心の高さを改めて認識させられる結果であった。
中小製造業の経営者にとっては、何を目的にIoT・DXを行うのか? が重要である。その答えを中小製造業の抱える課題と現状をベースに考察してみたい。 中小製造業の経営課題は複雑である。コロナ禍で受注は減少し、今年度に入って回復基調にあるが、鋼材費の値上がりや部品の入手難により、利益確保が難しくなっている。受注環境も、多品種少量・短納期の傾向が強まり、新規顧客開拓も必要となって、新規品の比率が増大している。この結果、段取り時間は肥大化し、人手に依存する作業が増えており、 省力化・自動化による段取り削減・無駄の排除が急務な課題となっている。 デジタル化により無駄を排除し、デジタル化による省人化・自動化を推進し、生産性の高い工場の構築が、中小製造業のIoT・DXの目的である。
中小製造業では、この目的に沿ってDXを実施した『成功事例』が続出している。DXの目的と投資メリットが明確で、特別な人材は不要であり、レガシーシステムをそのまま活用できる当社(アルファTKG)のIoT・DXシステムは、中小製造業で容易に導入可能である。 しかし、世間では『DXへの敷居は高い』と思う経営者が大半であると推測するが、これを裏付ける、興味深い報告書がある。総務省が発表した『令和3年版 情報通信白書』である。
この白書では、日本企業の『DXをすすめる上での課題』を公表している。これによると、課題の第1位は『人材不足 53・1%』、第2位が『費用対効果が不明 32・8%』、第3位が『資金不足26・9%』、第4位が『既存システムとの関係性25・8%』となっている。 人材不足が第1位に上るのは、『DXは難しい。当社に専門的で詳しい人材がいない』と いった漠然たる不安が、中堅・中小製造業経営者に浸透している証拠である。第2位~4位も、報道されるDXのイメージがあまりにも抽象的であり、『何をしてよいのか分からない』が原因と思われる。
この10年間、世間の話題はデジタル化に絞られてきた。インダストリー4・0、 SDGs、 Society5・0、SX、5G、AI、そしてIoT、DX等々、次から次と繰り出される新用語に惑わされ、 中小製造業の『DXの実践』が軽んじられるとしたら、それこそが『茹でガエル危機』で ある。 中小製造業のDXとは、図に示すように4階建て増築であり、特別な人材を必要としない。次回で『4階建て増築』を詳しく解説する。
◆高木俊郎(たかぎ・としお)
株式会社アルファTKG社長。1953年長野市生まれ。2014年3月までアマダ専務取締役。電気通信大学時代からアジアを中心に海外を訪問して見聞を広め、77年にアマダ入社後も海外販売本部長や欧米の海外子会社の社長を務めながら、グローバルな観点から日本および世界の製造業を見てきた。