ローカル5Gのメリットと低コストの導入パッケージ
近年の製造現場においては、生産性向上だけでなく変種変量生産への対応やセキュリティの確保、さらには人材不足への対応や作業者の安全確保など、さまざまな課題を抱えている。そうした課題を解決するには、もはや最先端のICTソリューションの活用やDXの促進などが必須といえるだろう。その通信インフラとして注目されているのが、5G(第5世代移動通信システム)が持つ「超高速」「多数同時接続」「超低遅延・高信頼」といった特徴を、工場など特定エリア内だけで利用する「ローカル5G」だ。徐々に導入が進み始めたローカル5Gは、スマートファクトリーの構築を目指す製造業のICT活用やDXに、どのような影響を与えるのだろうか。また、ローカル5Gの導入にあたっては、どのようなサービスを利用すればよいのだろうか。ICTの総合エンジニアリング&サービスを提供する株式会社ミライトが解説する。
ローカル5Gが実現する電波干渉のないワイヤレスネットワーク
近年、日本のものづくりにおいては、高度成長期時代から続いてきた少品種大量生産の継続が難しくなってきた。消費者ニーズの多様化や市場の変化などによって製品サイクルが短くなり、大規模工場であっても多品種少量生産への移行を考えなければ生産効率が維持できない。製造業ではこれを機にDXの促進を一気に進め、多品種少量生産だけでなく多品種大量生産や少品種少量生産など、さまざまな市場の要求にも対応できる「スマートファクトリー」の構築に注力し始めている。
スマートファクトリーに対応するには、工場などの生産現場でも柔軟に生産ラインが変更できるような環境を構築しなければならない。そこで、工場内ネットワークを有線LANからワイヤレスLANに切り替えれば、配線コストや設備配置換えで発生するケーブル移設費用および作業時間が削減できる。従来、工場内でワイヤレスネットワークを利用する際には、主にWi-Fiが採用されてきた。だが、Wi-Fiによる通信は狭い範囲に限られているため、大規模工場などの広いエリアや、屋外の通信はカバーしきれないという制限がある。そのため、ネットワークの利用拡張などによってWi-Fiの基地局を追加していくと、エリア内でWi-Fiの電波が干渉して十分なパフォーマンスが得られなくなるといった問題が起きていた。
こうした問題を解決するのが、ローカル5Gによるワイヤレスネットワークの構築だ。ローカル5Gはもともと携帯電話で使われることを想定した通信規格であるため、広範囲の通信がカバーできる。ローカル5Gは携帯電話事業者(キャリア)による全国向け5Gサービスとは別に、自社の敷地内に基地局を設置して専用の5Gネットワーク基盤を構築するため、事業者は無線電波の使用許可を総務省に申請し、免許を取得する必要がある。これによって電波の交通整理がなされ、隣接事業者や他通信システムの事業者との混信を回避し、電波干渉のない安定したネットワークの稼働や通信品質も保たれるようになる(表)。
また、災害などによって他の場所で起きた通信障害などの影響も受けにくいので、キャリアが提供する5Gサービスと比べて年間を通じて安定したネットワークの利用が可能になる。
表 ローカル5GとWi-Fiの比較
SIM認証で高セキュリティなインフラを構築
従来のWi-Fiによる工場のワイヤレスネットワーク化では、デバイスはSSIDとパスワードによってネットワークへの接続が管理されている。そのため、パスワード管理を厳密に行う必要があり、エリア外に漏れ出ている電波から不正侵入される危険性も考慮した高度なセキュリティ対策を施さなければならない。
ローカル5Gでは、ネットワークに接続する機器やセンサーなどのデバイスにはSIMカードが差し込まれている。SIMは、携帯電話やスマートフォンでも使われている、モバイルネットワークに接続する際の認証に使われるICモジュールで、クレジットカードや銀行のキャッシュカードにも使われているほど強固なセキュリティ技術に支えられている。ローカル5Gで利用する機器やセンサーは、IDや暗号鍵などの情報が格納されたSIMカードが挿入された状態でなければネットワークに接続できないため、高いセキュリティレベルが保てるようになる。
このように、閉ざされた空間で安定した帯域を確保し、高いセキュリティ環境のもとでの高速通信や低遅延通信を実現するローカル5Gは、製造業においてどのような活用シーンが考えられるのだろうか。例えば、工場内でも高画質映像の送受信が可能になれば、ARやVRといった最新の画像技術を活用した工程管理や製品検査などに役立てるかもしれない。また、ロボットの遠隔制御やIoTセンサーを活用した製造装置の監視・制御も遠隔からできるようになれば、働き方改革にもつながり、人材不足の解消にも貢献するかもしれない。さらに、工場内で部品や製品を無人で搬送してくれる自動運転キャリーなどが実現できれば、業務効率も大きく改善されるだろう。
低コストで手軽にローカル5Gを導入できるオールインワンパッケージ
一方、今はまだローカル5Gの導入に関しては黎明期であり、課題もいくつかある。例えば、ローカル5Gの導入には、無線基地局や専用端末などの機器の購入が必要で初期コストがかかる。また、電波を利用する際に必須となる無線局免許の申請は手続きが複雑で、ローカル5G機器とクラウド、エッジといった各種機能を連携させるためのネットワーク設計や保守運用にも専門的な知識・技術が必要だ。
当初は4G/LTE基地局を利用する、ノンスタンドアロン構成から構築が始まったローカル5Gだが、現在は5G基地局とコアネットワーク設備のみを利用するスタンドアロン構成での構築が可能になり、導入コストや無線免許申請に関するハードルは大きく下げられた。とはいえ、無線の免許申請はただ提出して終わりではなく、各地の総合通信局や免許の種類によっては総務省に直接訪問し、申請書類の内容を説明する必要がある。また、ネットワーク機器の導入後には申請した通りの仕様に調整する必要があるなど、無線の利用に慣れていない場合はやはり手間がかかる。
そこで注目されているのが、ローカル5Gを導入するためのさまざまな手続きから機器の設置までをワンストップで行うソリューションパッケージだ。ミライトが提供する「ローカル5Gオールインワンパッケージ」は、ローカル5G導入に関わる業務として、機器の提案からワイヤレスエリアの設計、免許申請の代行、設置工事、保守・運用までを提供するソリューションだ(図1)。
図1 ローカル5Gオールインワンパッケージが提供するサービスの概要
「ローカル5Gオールインワンパッケージ」で提供されるネットワーク機器は、総務省ローカル5G実証や先進企業のPOCニーズに合致したAPRESIA Systems製の機能限定廉価版を採用している(図2)。使用する電波はSub6帯、周波数帯は屋外利用も可能な4.8~4.9GHzとなっている。また、システムもOSS(オープンソースソフトウェア)で構成されるなど、初めてローカル5Gのワイヤレスネットワークを導入しようとしている企業を対象に、ローコストでのサービス提供を実現した。ミライトでは、お客様のニーズに最適なご提案の実現に向けて、ラインナップ拡充を進めている。
図2 APRESIA AEROシリーズで構成されたシステム例
ミライトは、通信建設会社として70年以上に及ぶ通信インフラ建設や電気設備工事などの実績がある。ローカル5Gの導入に関しても、ノンスタンドアロンでの構築や、直進性が高くエリア構成が難しいミリ波での構築にも関わってきた。こうした経験やノウハウがあるからこそ実現できた「ローカル5Gオールインワンパッケージ」だが、実際に工場でローカル5Gを活用すればどのような効果が得られるのだろう。
次回は、ローカル5Gの導入効果について考えてみたい。
Webページ:https://www.mrt.mirait.co.jp/solution/local5G_allinone/
プレスリリース:https://www.mirait.co.jp/news/upload_files/20210623.pdf
株式会社ミライトについて
株式会社ミライトは、1944 年の設立以来 70 余年の長きにわたり、通信インフラ建設、及び電気設備工事業を通じ社会の発展に貢献してきました。2012 年 10 月には、「MIRAI(未来)+IT」を志に掲げ、社名を「ミライト」に変更。未来を担い、未来を作り出す「総合エンジニアリング&サービス会社」として、ICT 技術を核とした社会イノベーションの創出に注力しています。現在では、通信インフラ網・電気設備の構築の分野において、世界でも先進的な技術とサービスを提供するにいたっています。2020年からは、5G 領域のビジネスの拡大を図っています。