「お客様第一」とか「後工程はお客様」といった言葉をいたるところで耳にします。ところが実際にはそれをきちんと実行している工場となると極めて少ないのです。
「今あなたが作って容器に入れた部品ですが、次の工程の方がどのように容器から取り出して、どんな仕事をしているのかを見たことがありますか?」といった質問をして、ちゃんとした答が返ってきたことは少ししかないのです。
出退勤時に後工程の前を通るので、その時に見ているくらいでは見たことになりません。時間中に仕事の手を休めて、わざわざ見に行ったことがあるかということです。
以前にプレス工程の方と一緒に次工程の溶接現場に行ってみました。すると一生懸命にプレス工程で付いた表面のわずかな油分を拭いていました。次に溶接の人と次の塗装工程に行ったら一生懸命に溶接工程で付いた目に見えないような小さなスパッタ―を取っていました。最後に塗装の人と組み立て工程に行ったら塗装工程でのネジ面にちょっとだけ取り残した塗料を苦労して剥がしていました。
この後工程見学ツアーに参加したすべての人が自分の責任で後工程がいかに苦労しているかをその時に初めて知り、全工程がカイゼンされました。それも極めて大きな効果が出たのです。
「後工程はお客様」を100回唱えるより、まずは後工程が自分たちの仕事をどのように引き継いでいくかを実際に見ることです。次の工程、その先、そしてまたその先、と続けて最終が本当のお客様です。すべてがそこにつながります。そしてその第一ステップが後工程であるお客様なのです。
■著者プロフィール
柿内幸夫
1951年東京生まれ。(株)柿内幸夫技術士事務所 所長としてモノづくりの改善を通じて、世界中で実践している。日本経団連の研修講師も務める。
経済産業省先進技術マイスター(平成29年度)、柿内幸夫技術士事務所 所長 改善コンサルタント、工学博士 技術士(経営工学)、多摩大学ビジネススクール客員教授、慶應義塾大学大学院ビジネススクール(KBS)特別招聘教授(2011~2016)、静岡大学客員教授
著書「カイゼン4.0 – スタンフォード発 企業にイノベーションを起こす」、「儲かるメーカー 改善の急所<101項>」、「ちょこっと改善が企業を変える:大きな変革を実現する42のヒント」など
一般社団法人日本カイゼンプロジェクト
改善の実行を通じて日本をさらに良くすることを目指し、2019年6月に設立。企業間ビジネスのマッチングから問題・課題へのソリューションの提供、新たな技術や素材への情報提供、それらの基礎となる企業間のワイワイガヤガヤなど勉強会、セミナー・ワークショップ、工場見学会、公開カイゼン指導会などを行っている。