拙速という言葉がある。できはいまいちの案でもすぐ動くという意味だ。一般的に使用される同類語に即断即決や朝令暮改がある。あまり考えないですぐ決めて、すぐやるとか朝に決めた事を夕には変更するという事であって思虜の足りないさまの表現に使う事が割り合いに多いようだ。しかしクラウゼヴィッツの戦争論にあるように熟虜の末に考え抜いたすばらしい戦術、作戦で兵を動かすよりも少々まずい作戦でもすばやく立案して動く拙速の方がいいと言う。
商売も又、真剣勝負であるから、少々まずくとも熟虜しないで早くやれということになる。だから拙速は世間ではあまり良い意味で使われない言葉だが商売では良い意味で使われる。即断即決は我構であるし、朝令暮改は更によしと言うことなのだ。地政学という学問がある。これは地理的環境が日本に与える政治的、軍事的、経済的影響を研究する学問である。日本列島は地政的に他国からの脅威をあまり受けてこない歴史文化をつくってきた。そのせいか難しい問題になると即断即決はせずに先送りをすることが多くなる。ゆっくり練って良い案がでてくるまで待つべきだということになる。その間に他国から攻めてくるという切羽詰まった状況は地政上、極端に少なかったことが先送りの多くなる一因になっている。機器部品を扱う業界は地政的な見方をすればどんな位置にあるのか、電子機構部品は色々な業界の製品に搭載されるし、機器商品はあらゆる製造業の現場で使用されている。
したがって、部品機器の需要には好調不調はあるものの他の業界と比べれば安定している。だから機器部品業界は地政学的に言えば脅威を受けない安堵の世界の中に位置していたことになる。しかし現在、中小の販売者が気になっている問題がある。販売体系の違う通販型会社の攻勢に、何かと手を打たなくてはと思いつつも良い案がでてこなくて結果的に成りゆきを見ている。これまで不調は何度があったが赤字はまぬがれてきたという自負がある。それに世の中が不景気状態の時でも「我々の業界はまだいい方だ」と言い続けてきた。だから何とかなるのではという期待感がどこかにある。
しかし 令和では通販型販売攻勢の問題だけでなくグローバル世界の変化や情報デジタル技術の加速によって、機器部品業界の地政的安堵の位置が崩れるだろう。だから令和では成りゆきを見る様な先送りはできなくなる。拙速に動くときである。
色々な産業が立ち上った戦後の昭和時代に商売は真剣勝負だった。思いついたらまずやって見ようとして動いた。
現在は失う物を多く持っている。だから失敗するかもしれないと言って慎重に動くのが主流である。しかし商売の本質はクラウセヴィッツの世界と同じである。時間をかけて良い考えを導き出すより、まずは動くという拙速を心掛けるべきだ。その際に扱い商品というフィルターを通して顧客やマーケットを見ても従来のやり方を強化するだけになる。そんな時に孫子の兵法にある迂道の計はヒントを与えてくれる。相手より不利な状況の場合に自軍の有利になる戦場に移動して、色々な手を使って敵をその戦場におびき出す。
つまり有利な戦場で戦う戦術だ。マーケットで不利な戦いを強いられると思うなら、有利な戦場を勝手につくればいいのだ。それには現場事情に精通することだ。例えば生産技術で案件が発生する現場なら、生産技術に仕事を依頼するのはどこかを突き止める。それが製造課なら商品の購入はなくても製造課との仲をつくって置く事だ、そうすれば先行情報を入手できて優利に戦えるのだ。