墓売りのウィーリーゲールは苦労の末に全米で屈指の販売員になった。その苦闘の経験を体系的にまとめて小冊子にした。その小冊子が日本語に訳されて紹介されたのはちょうど日本の産業が立ち上がろうとしていた60年代であった。墓売りとというきつい販売の初回アプローチから見込客が興味を抱いて、もう少し聞いて見ようか、と思うまでの流れは令和の販売員にとっても参考にすべき点がある。彼の営業は墓に興味を示さない客とコミュニケーションを続けるために会話の糸口を探ろうとすることから始めている。
相手とまったくの白紙と捉えて宗教・哲学・性格・環境・人脈などあらゆることに探りを入れている。機器部品の営業の場合はこの人物像に匹敵するのが法人としての会社像ある。興味の有無がわからない見込客とコミュニケーションを続けるには会社像の熟知が欠かせないということだ。その見込客が機器部品を搭載する製品のメーカーならば何をつくっているメーカーか、今は何を手掛けているのか程度の事を探るだけではウィーリーゲール流とは言わない。ウィーリーゲール流ではその会社の営業について知ろうとすることだ。
何名位のメンバーで、どのマーケットを得意としているのがわかれば会社の顔が見えてくる。営業の人に会えばより詳しい会社像がみえるものだ。見込客が製造工場の技術部門の人であるならば今はどの様な仕事をしているのか程度ではウィーリーゲール流ではない。
工場は大きな設備を抱えて、色々な技術で運営されている。だからどの様な技術部門があるのかを知ろうとすることだ。又工場は活発に動いているから日々様相は変わっていく。だからその変化の基になっている方針は何かを知ろうとすることだ。技術部門や方針を知れば工場の顔が見えてくる。ウィーリーゲールの目的はもち論、墓を買ってもらうことだが墓というむずかしい商材を売り込むには商材を理解することよりも相手を理解することの方が大事なのだ。だから相手に会う目的は相手がどのような人物かをできるだけ探ってコミュニケーションを持続することだった。
機器部品営業では平成の盛りから難しい商材を理解して顧客の課題に応える営業をずっと実践してきた。課題がわかっても相手の会社像や相手の工場の顔がウィーリーゲール的には見えてなかった。令和時代は機器部品営業にとって新規客層開拓の時代である。この新規客層開拓は課題のまったく見えない相手である。まして案件など早々と出てこない。これまでも案件や課題がなくとも拡販活動をしてきた。その際に商材を全面的に出して売り込むか、あるいは商材をダシに使って相手の興味を見分ける努力をしてきた。
顧客になりきってない相手でも多々成功してきた。この成功は商材で押してもいい気心のわかる客層であったからだ。令和の新規客層とは従来の顧客と接点を持っているがその接点はたった一つの商材かもしれないし、頼りない紹介状かもしれない。そんな客層を相手に自社の強い商材で押そうとしても訪問は一度きりで終わってしまう。ウィーリーゲールのようにコミュニケーションが続いて何度かの訪問が可能になれば商機を窺うチャンスは訪れる。
見込客とコミュニケーションを続けるには相手の会社や工場像を知ろうとして必死に会話の糸口を探ることから始めることだ。それには今までの顧客とのつき合い方が重要になる。長い期間をかけて顧客の像を探ってきた販売員ならその蓄積された情報を武器にして新しい会社や部門とでも会話の糸口をつかめる。なぜならもの造りには共感点が多いからだ。