最近、多くの顧客から「大きな損失(失敗)をした」と手遅れの状態で当社に問い合わせがくる。
その中で最近、最も多い『失敗の声』を2つ述べる。
1つ目は、「ロボットメーカーはいつも取引をしている商社の勧めで選択した」「そして、ティーチングが思った以上に難しいことが分かったので、ティーチングソフトもそのロボットメーカーから購入した」「しかし、ソフトの使い勝手が悪く、まったく効率化にならないので、メーカーに問い合わせたが、返答も1週間以上待たされ、ようやく来た返答も納得できる回答でなかった」「結局は、手作業に逆戻りで、多額のお金を損失しただけだった」。
2つ目は、「社内でデジタル化を進めることになり、ティーチングソフトを購入した」「しかし、現場の様々な問題(ロボットの先端に付けるツールの向きがソフトと全然違う動き、現場のズレが許容範囲を超える)のため、殆ど現場でティーチングのやり直し」「ソフト会社に問い合わせたが『操作方法はお答えできますが、現場のロボットの動きまでは責任持てません』と言われた」「結局、ソフトはゴミとなった」。
これらの損失パターンは「補助金がらみ」も多く、大事な血税が無駄になっていることも見逃せない。以前の筆者の記事と重なる部分もあるが、あまりにもこのパターンの問い合わせがあまりに多いため、繰り返し述べている。
失敗を防ぐ方法
なお、1つ目の失敗を防ぐ方法は、以前の記事でも述べたように、「ソフトの導入を先にすること」「優秀なコンサルタントに相談すること」である。
2つ目に失敗を防ぐ方法は、上記だけでなくティーチングソフトの違いを「正しく認識」することである。さて、ロボットのティーチングソフトは、「オフラインティーチングソフト」と呼ばれているが、ネット上に載っている内容は、わかりづらいし不正確である。例えば、ネットでは「シミュレータ型」「エミュレータ型」「自動ティーチング」「テキスト作成」と別れているが、「自動ティーチング」のソフトでも「シミュレーション」はできるし、「シミュレータ型」で「自動でティーチング」もできる。また(当社調べで)全てのソフトで「テキスト出力」できるので、「テキスト出力」を分別することも不正確だ。
よって、オフラインティーチングソフトの種類(分類)を以下にまとめる。なお、これらは実際に使われたユーザーの意見を参考にまとめたものである。
「ロボットメーカー」型
ロボットメーカーが開発したティーチングソフトである。いかにもロボットメーカーが作った感じのするソフトで、画面にはティーチングペンダントが表示され、それを使ってティーチングをするので、ペンダント熟練者用である。CADを使って簡単にティーチング出来るものもあるが、後述するティーチング時間短縮型の便利機能には及ばない。よって、「現場でペンダントを使ってティーチングするのと時間も手間も変わらない。しかも現場でズレを微調整する必要があるので、余計に時間がかかる。」との意見が殆どである。ロボット素人にはお勧めできない。
以下に述べる種類はソフトメーカーが開発したティーチングソフトであり、「ロボットメーカー型」とはまったく違う特徴を持っている。
「ライン設計」型
工場の製造ラインを設計するためのソフトである。画面には「複数のロボット」「作業者」「コンベア」などを配置できる。よって、「ティーチングソフトというより、どちらかというと工場のラインを設計するためのソフト」という意見が殆どである。
「ティーチング時間短縮」型
ワーク(製品)3DCADのデータを用いて、ティーチングを簡単かつ短時間で行うためのソフトである。画面上のワークのティーチングをしたい箇所をクリックすることで、複数のティーチングポイントを一括で作成することができる。例えばバリ取り・研磨・切断・溶接などでは、ワークのエッジ(ライン)をクリックすると、そのライン上に複数のポイントが自動作成される。ハンドリング(運搬・組み付けなど)では、ハンドリング前後のワークをクリックすることで、その空間の移動のポイントを自動で作成される。つまり、1点1点ペンダントでティーチングするのではなく、3DCADからティーチングポイントが自動作成され、ロボットも先端がポイントに行くように各軸が自動計算される、という仕組みだ。
このタイプのソフトは複数存在するが、手作業に逆戻りになることが多いので、「現場向きの機能があるか?」に注意をしてほしい。なぜなら、「現場の製品は3DCADと同一ではない」「現場のロボットとワークの位置関係はPC上とは違う」からである。これらの問題を「いかに簡単に吸収してくれるか?」がソフトを選ぶ重要な鍵である。当社のソフトにその機能があるため、多くの顧客から「今までのソフトと全然違う」と好評である。
ロボットに詳しい会社のソフトを選択すべき
最も重要なことを最後に述べる。繰り返しになるが、ソフトよりロボットを先に選択しないこと。また、現場でロボットが作業するまで面倒を見てくれる会社に依頼をすることだ。なぜなら、ロボットとソフトを歯車のように噛み合う必要があるためだ。残念ながら、当社以外で現場の工場でロボットの動作確認をする会社を見たことも聞いたこともない。面倒だからやらないだけでなく、ロボットの知恵もかなり必要になるからだ。当社は、多くの顧客から「ロボット実機が動くまで丁寧に説明してくれたおかげで、ロボットの初心者でも問題なく動かせるようになった。」と感謝されていること、この上なく有難いことである。
◆山下夏樹(やましたなつき)
富士ロボット株式会社(http://www.fuji-robot.com/)代表取締役。福井県のロボット導入促進や生産効率化を図る「ふくいロボットテクニカルセンター」顧問。1973年生まれ。サーボモータ6つを使って1からロボットを作成した経歴を持つ。多くの企業にて、自社のソフトで産業用ロボットのティーチング工数を1/10にするなどの生産効率UPや、コンサルタントでも現場の問題を解決してきた実績を持つ、産業用ロボットの導入のプロ。コンサルタントは「無償相談から」の窓口を設けている。