脳科学によれば人間の脳にはミラーニューロンという神経細胞がある。ミラーは鏡であるし、ニューロンは脳の神経細胞である。ミラーニューロンは他者をまねて学習する脳の領域であり更に他者の態度や表情等の情報によってどう感じているかを理解する領域だと言う。
言葉使いの美しい人は上品に感じるし、他者が喜んだり、悲しんだりするさまを同様に感じてしまうのはミラーニューロンの働きのようである。それに人間の脳には生来、他者を理解しようという衝動があり、他者が何を考えて、どう行動するのかを知ろうとした時にミラーニューロンが活発に働くようだ。
人は特別な目的のないおしゃべりでも無雑さに受け答えしているわけでなく脳が大量の情報を集めて判断している。判断を下す時の基準にミラーニューロンが関係していると言われている。
人を理解しようとする時の情報と言えば相手の発言だけでなく表情、仕草、声や第三者の評価反応などの広い情報である。それらの情報を基にミラーニューロンが判断の基準をつくっていると言う。だから脳は生まれつき他者を理解しようとする衝撃はあるが数々の体験をしていなければ他者を理解する目は肥えないのだ。ミラーニューロンの働きは他者と実際に会っている時に最大限に機能とする言う。営業は他者と会う機会が多いから他の職業
に比べれば他者の理解に関して有利な学習ができることになる。実際には販売員が駆け出しの頃は商談する際に商品を購入してもらえる様に働きかけるのが精一杯である。それに対し客人の脳は販売員はどんな人物か、どんな行動をするのかを知ろうとして情報集めにフル回転する。それまでに何人もの販売員に会ってきたので販売員を見る目は肥えている。その上、攻める側よりも守る側に他の利があるように攻める販売員よりも客先側は気持ちの上で余裕がある。更に平成の販売員のやり方をよく知っているから待ち構えることができる。
これに対して若手の販売員は余裕がないだけではない。客先理解の基準をつくるミラーニューロンは先輩と同行して体験したことが基になって客先理解の基準をつくる。それによると扱い商品のうんちく話をすれば顧客は満足してくれるんだという理解をする。更に先輩のように日常的な雑談ができれば気安く話せるようになると理解する。先輩が同行する顧客は長年、つき合ってきた結果ということを理解しないまま基準をつくる。当然その後基準は変えることができるのだが意外にこれが変わらない事が多い。しかし相手をする客先の理解は重要なことなのだ。
集団の戦術で常勝軍のローマ軍司令官は何人もの捕虜に自ら尋問した。敵の大将は日常どう過しているか、家族とはどう過ごしているか、機嫌のいい時や悪い時に部下にどのように接するのか等の質問をしている。ローマ軍の中核である百人隊長の尋問は敵の人数や兵器の情報に関することだった。当然それらの情報は知りたいが兵団を動かすのは司令官や大将であるから戦場ではその人物を理解することが最も重要であることをローマ司令官は知っていた。平成で育った機器部品販売員は駆け出し時代に最初に受けた洗礼がミラーニューロンの基準をつくったままだから相手の人物像や組織の上での立場を具体的に知ることが重要な営業力だとは思ってない。
確かに機器部品の性質上地味な取引を継続する営業だからそれでいいのかもしれない。しかし令和のマーケットは平成とは違った様相をみせるとすれば相手の立場や人物を理解することが重要な極面になる、特に上位の人と会う時には欠かせない情報の一つだ。