産業用ロボットをうまく使えば所得は上げられる
最近、「日本の所得が伸びていない」「しかも先進国の中でダントツ」という言葉がよく聞かれるようになった。その理由を、私が見てきた産業用ロボットの実例から述べる。
まず、多くの方が「ロボットの世界では、ソフトやコンサルを重視する必要はない。ハード(ロボットや周辺機器)の方が大事」「SIer(システムインテグレータ)は、どこを選択してもさほど変わらない」という認識を持っているが、それはとんでもない誤解である。産業用ロボットの世界では「優秀なソフトやコンサル」で生産効率を飛躍的に上げることができる。そして、生産効率が上がれば、社員の所得は必然的に上がる。
その実例の話をする前に一言述べるが、国が最低賃金を上げることに有識者を集めて議論しているが、それは「現場を知らない会議室での議論」「税金の無駄遣い」である。なぜなら、効率が上がっていない企業に無理やり所得アップを要求しても、ただ企業が苦しむだけで何の根本的な解決になっていない。
月給1万円アップの実例
当社の顧客は100%に近い確率で生産効率アップ/所得アップに成功している。
先月も、某顧客の工場の責任者から「富士ロボットさんと付き合って1年ほどたちますが、以前は(多大な残業もして)年間3品番が限界だったものが、おかげさまで15品番できる様になりました」「ロボットの担当者の月給が1万円上がりました。会社の歴史で、どんなに上がっても3~4千円だったのに、これは凄いことですよ」と喜びの声をいただいた。特にこの企業は、当社の『ソフト』と『コンサル』を謙虚かつ全力で受け入れたので、このようにすぐに数字に表れた。
その他の多くの顧客からも、このような報告を当社は多く頂いているが、とても喜ばしいことである。
もし、この記事の読者が「ほんとうに?」と疑われるなら、(顧客から許可をいただいた範囲で)画像などを用いて筆者が直接説明をしたい。
実例①:ソフトを軽んじる企業
では、同じ産業用ロボットを持っていても、変われない会社はどのような会社であろうか? 実例を2つ挙げるので、反面教師にしてほしい。
先日、大手自動車会社の1次サプライヤーの課長から「ロボットのティーチングの工数が多大なので、工数削減したい」と問い合わせがあった。筆者は「大手の製品は大ロットなので、一度ティーチングをすれば何年もティーチングは不用では?」と聞くと「確かに大ロットだが、度々ロボットの位置を変更する必要があるので、その度にティーチングをやり直すのが手間。よって、ソフトで解決したい」とのことだ。筆者は「当社で汎用性のパッケージソフトで(無償の)テストをしてみましょうか?」と聞くと、「そのソフトの価格はいくらか?」と聞かれたので「教育やサポートも込みこみで、400万円ほどです」と言うと「ずいぶん高いなー」という回答だった。筆者は非常に驚き、「安いねー!」の間違いかと思ったが残念ながらそうではなかった。
これは、典型的な日本人の「なんで目に見えないソフトなんぞに金を払う必要があるの?」という考え方である。海外ではソフトが重視されるので絶対にありえない考え方だ。当社に(特に古くから続く)大手企業から問い合わせが来ると、いつもこのようなやり取りになるので、筆者はうんざりしている。彼らはお金を持っていないのではない。1億円の加工機には、喜んで何度でもお金を払う。つまり、生産効率を上げるための有意義なお金の使い方を知らないのだ。
ちなみに、このお金のやり取りの前にも驚く発言があった。それは筆者が、この課長にCADデータに関して質問をしたところ、「CADも外注しているので、質問の意味が分からない。外注先に聞いてみないと」と返答された。筆者は決して難しい質問をしたわけではなく、CADの基本であるデータの形式や拡張子などを質問しただけである。現場の責任者がこんな基本も分からないとは、『外注・外注・外注』で自社は何も知識や技術力を持っていない。これが日本の大手企業の実態なのだ。
実例②:技術力より接待力
当社がコンサルティングをしている某中堅企業で、「工場に導入するロボットシステムをどのようにするか」の相談にのっている時のことである。その相談の中で「どのSIerに任せるか」について、筆者が今回のロボットシステムに「適したSIer」(だけでなく「絶対に適さないSIer」)をいくつか紹介した。しかし、数カ月後に工場の担当者に確認をとると、任せるSIerがなんと「絶対に適さないSIer」になっていた。理由を聞くと、その担当者が申し訳なさそうに「私の会社の取締役から、その(適さない)SIerに依頼するように命令があって、それには逆らえないのです」と言われたので、筆者は「その取締役はそのSIerから、接待を受けていますか?」と聞くと、「いろいろと受けています」と教えてくれた。
これも、筆者が非常によく耳にするパターンで、要するに『(効率を上げる)技術力を持つ企業に仕事を依頼するのではなく、より良い接待をしてくれた企業に依頼する』ということである。仕事が欲しい企業は、技術力を上げるよりも接待力を上げた方がよいのだ。
取り返しのつかないことになる
このような状況では、依頼する企業も、依頼される企業も効率と所得は上がらない。「ソフトは軽んずる」「接待力だけはある」、このような古い体質が続けば、日本の企業は海外と比べさらに大きな後れをとり、取り返しのつかないことになるだろう。
当社と共に生産効率を上げて、所得を上げる企業が増えることを願わずにはいられない。
◆山下夏樹(やましたなつき)
富士ロボット株式会社(http://www.fuji-robot.com/)代表取締役。福井県のロボット導入促進や生産効率化を図る「ふくいロボットテクニカルセンター」顧問。1973年生まれ。サーボモータ6つを使って1からロボットを作成した経歴を持つ。多くの企業にて、自社のソフトで産業用ロボットのティーチング工数を1/10にするなどの生産効率UPや、コンサルタントでも現場の問題を解決してきた実績を持つ、産業用ロボットの導入のプロ。コンサルタントは「無償相談から」の窓口を設けている。