グローバルでの競争が激化する昨今。このような環境下においては、若手技術者の即戦力化が強く求められます。若い技術者というのは、柔軟性も高い上、体力もあり、またスピード感もあります。
経営的な観点から言えば、一般的には人件費が安いということもあり、費用対効果という意味でも早急に成果を出せる技術者になるということは、企業の競争力強化にもつながっていきます。しかし、なかなか理想通りにいかないのが実情です。
若手技術者が圧倒的に不利な経験
若手技術者が初期段階で何かをやろうとした際、間違いなく最大の難関となるのが「経験の不足」です。こればかりは、どうにもなりません。
よく、ここに配慮せずに、「なんでこんなこともわからないんだ」とマネジメントがプレッシャーをかける事例もありますが、若手技術者の反発や委縮につながるだけで、最重要の目標である「新しい技術を生み出す」というところに到達することは困難です。
マネジメントに限らず、若手技術者より経験の長い技術者は、自らの最大の強みである「経験」に頼り、自らの優位性を示そうとしますが、これによるポジティブな効果はまず見込めないでしょう。
むしろ、どのようにすれば若手技術者の経験不足を補えるか、という思考で動いた方が圧倒的に有意義といえます。
若手技術者の経験不足を補うフォロー
では、経験が不足する若手技術者に対し、マネジメントはどのように接するべきでしょうか。
最も重要なのは、「若手技術者が不足している部分をフォローする」ということです。
足りない部分をマネジメントがフォローできれば、その経験の少なさをカバーできるようになります。
しかし、そのやり方にはいくつかポイントがあります。
若手技術者のフォローにおける留意点
若手技術者のフォローにおける留意点をいくつか述べてみます。
1.手や口を出しすぎない
最も重要なのは「手や口を出しすぎない」ということです。
若手技術者の言動をみていると、マネジメントの経験に基づきいろいろと言いたい部分があるかと思いますが、あまりにも手や口を出しすぎるのは避ける必要があります。
その理由は、「自分の身をもって失敗をする」という経験ができないからです。この失敗こそが、結果的に経験を糧にし、自らのスキルへと昇華させるための大変重要な経験となります。
しかし、失敗や失敗につながる可能性のあるものをあまりに事前に取り除きすぎると、「自ら失敗をし、それをどのように挽回するか」という経験をできなくなってしまいます。
特に上記のような失敗と挽回という経験は、若いうちに経験するほど、深くその記憶が刻まれることになります。
2.自ら調べるということを覚えさせる
新しい技術を生み出せる技術者のほぼ100%が、「自らわからないことを調べ、その結果を踏まえ、次の対策を考える」ということができます。
このスキルを生まれもって有している若手技術者はもちろんいますが、そうでない方もいます。若いうちに、「教えてもらうだけでなく、必要な情報を自ら調べる」という能動的な業務姿勢を覚えさせるということは、新しい技術を生み出せる技術者を育成するにあたっては必要不可欠です。
新しいことを生み出す技術力を身に付けるためには、常に目の前の事象に注意を払い、かつ自分ではわからないことが生じた場合、それを突き詰める、という思考の流れをルーチンにしておくことは前提条件といっても過言ではありません。
3.過去の知見を用意しておく
ここはマネジメントとして大変重要なことですが、過去に行ったこと、発生した事象等の記録を残しておくことは、若手技術者の一人立ちに大きな力を発揮します。
最も代表的なものが、「技術報告書」です。どのような背景があり、どのような目的で評価を行い、その結果がどうであったか。そのような日々の蓄積を記録した技術報告書は、若手技術者の経験不足を補う貴重なデータとなります。
技術報告書は活字として残っているので、若手技術者は自ら調べようと思えば、いつでも調べることができるうえ、何度でも繰り返し見返すことができます。
このような情報媒体を用意してあげておくことも、結局のところ若手技術者の即戦力化に重要なのです。そういう意味では、マネジメントは研究開発部隊において、日々の業務を技術報告書としてまとめる、という業務をルーチン化しておくということが求められます。
新しい技術を生み出す基礎力は時間に厳しい仕事を通じて養われる
新しい技術を生み出すというと、じっくり時間をかけて業務に取り組む猶予を与えるべき、という考え方が一般的です。これはもちろん正解なのですが、忘れてはいけない観点があります。
それは、「新しい技術を生み出すためには、時間軸(納期)の厳しい仕事を若いうちに積ませておくことがその前提にある」ということです。若いうちに時間的なプレッシャーのかかる仕事に取り組むのです。特に失敗が許されない雰囲気でプレッシャーのかかる仕事が望ましいです。叱責されるようなプレッシャーというよりも、時間的に後がない、という業務上の責任からくるプレッシャーが適切です。
このような「時間が限られている中で、集中して結果を出す」ということを若いうちに覚えられると、時間的な猶予のある仕事に取り組む際、「自らを客観的にみる」という視点を得られるようになります。自らを客観的にみられるということは、自分自身だけでなく、周りも見えるようになっています。結果的に、現在の市場や業界の動向に加え、自社の技術の立ち位置と不足している部分、それらを踏まえて今後目指すべき方向性というものが見えるようになるのです。
このような視点を持たない限り、なかなか新しい技術を生み出すということができません。そして同時にこの視点は時間軸的なプレッシャーのかからない仕事ばかりしていては、身に付かないのです。年齢を重ねてから突然時間軸の厳しい仕事に取り組むのは大変です。
体力的に衰えてくることはもちろん、仮にそこまでに時間軸の厳しい仕事に取り組んでいなければ、ベースとなるスピード感も耐性もなく、プレッシャーに耐えることができなくなります。この手の力は若いうちの過ごし方でほぼ決まるといっても過言ではありません。
若手技術者の限界に近い負荷量で、時間軸に厳しい仕事に取り組ませる一方、マネジメントが経験不足の部分を補うためにフォローする。このような一見地味で当たり前の取り組みをきちんと行うことが、将来的に新しい技術を生み出す技術者を育成する大切な基礎となっていきます。
【著者】
吉田 州一郎
(よしだ しゅういちろう)
FRP Consultant 株式会社
代表取締役社長
福井大学非常勤講師
FRP(繊維強化プラスチック)を用いた製品の技術的課題解決、該関連業界への参入を検討、ならびに該業界での事業拡大を検討する企業をサポートする技術コンサルティング企業代表。現在も国内外の研究開発最前線で先導、指示するなど、評論家ではない実践力を重視。複数の海外ジャーナルにFull paperを掲載させた高い専門性に裏付けられた技術サポートには定評がある。
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