1975年生まれの私は、いわゆる就職氷河期に直撃した世代である。バブル崩壊後、日本経済が低迷し、1993年から2005年まで有効求人倍率は1.0を下回り、就職活動に苦労した思い出がある。
フリーターや非正規社員が増加したのもこの世代で、ロストジェネレーションや失われた世代と言われ、いまも働き方で苦労している人も多い。また企業もこの時期に採用を絞った影響で全体の年齢分布構成がいびつになり、現在、本来であれば中堅や経営を支えるはずの30代や40代の経験豊富な世代が薄くなっている。日本の経済の低迷は「失われた30年」などと言われるが、その原因のひとつとして「働く人に対する軽視」があったのは間違いない。当時の若い力を採用せず、教育せず、経験を積ませなかったことが悔やまれる。
いま製造業を含めてどの産業でも人手不足で就職氷河期とは異なる。しかし、別のところでロストジェネレーション、失われた世代を生み出してしまいそうな危険な兆候がある。それが2020年のコロナ禍発生後に採用された新卒や若手社員だ。彼らは、これまでの社員が必ず経験してきた研修や教育、社内外とのコミュニケーションやフォローを受けられないまま、現在必死に業務に向かっている。
企業が彼らに対して、リモートで研修や打ち合わせなどを行ってフォローしていると言っても、これまでの形とはまったく異なるため、基本的なスキルの習熟度は従来と同じレベルで測ることはできない。コロナ禍が収束した後、揺り戻しでリアルとオンラインのハイブリッドになった時、リアルを経験していない彼らが対応できるかどうかは未知数だ。
以前ならば先輩社員と同行して顧客との話し方や提案方法等を肌で感じ、移動中も話をすることで多くのことを吸収できる。慣れてきたら、若手を前に出し、先輩がフォローに回って成長度合いを見ることもできる。それを繰り返すことで業務の習熟度合いを判断しつつ、自分たちと同じ経験を積ませて共通の土台と認識で話ができるようになる。しかし今はそれができない。
いずれコロナ禍は収束する。リモートオンリーのこの状態は一時的なものになるかもしれない。しかし、若手にとってこの状況で新人時代を過ごしたことが不利になることだけは避けたい。ロストジェネレーションの再発は防がなければいけない。