人は誰でも心身ともに健康でいられるように願っている。身体には気を使って不調をさとったらすぐ対応するが、精神的不調にはそれほど敏感ではなく、予防処置は後回しになる。精神的不調はストレスと関係することが知られている。それでストレスは一般的に悪者扱いをされる。人間の脳はストレスを感じると脳のシステムが作動してストレスホルモンを分泌する。このストレスホルモンは心拍数を上げて身体の迅速な働きを促す。したがってこのホルモンの適度な分泌によって集中力が生まれ、思考機能は活発になる。ストレスホルモンが分泌されなければ無気力になると言う。
販売員は売上予定の心配、顧客とのトラブル、新規開拓のプレッシャー、等々のストレスを受けて多忙な一日を過ごす。今日は何となくエンジンのかかりが遅いと感じるのは、ストレスホルモンの分泌が極端に少ないと言うことなのだ。
販売員は出掛ける前の処理が終わり、顧客へ向かう時、天気がいいと晴れやかな気分になり、今日はテーマが見つかりそうだ「よし」と自分を鼓舞すればストレスホルモンが分泌し、機敏に身体が動く。このような販売員にかかるストレスはやる気を出す応援団になる。
しかし販売員が受ける日々のプレッシャーに強いストレスを感じ、それが長期間続くとストレスホルモンが大量に増えて精神的不調を訴えるようになると言われる。ストレスはともかく厄介なものであるが必要なのである。販売員が営業に出たばかりの頃には強いストレスを感じて、辞めたくなるものだが少しずつ顧客関係に慣れてくると、強いストレスを善玉ストレスに代えて営業をやりがいのある仕事にできてくる。
平成時代からやっている営業では次々と新しい顧客を作るのではなく、顧客密着で売り上げを模索するものであったから強いストレスが次々とかかることはなかった。令和時代の営業はストレスとどのような関わりになるのか。令和の社会はデジタル化の加速や脱炭素化等々が製造業にも大きな影響を与えるだろう。
顧客が作る製造品も従来と同じ製品とは限らない。製造現場も新しい技術が入ってきて投資が従来とは違う分野へ広がっていくだろう。そうなると顧客の中で販売員の密着してきた部所の予算が相対的に縮小するかもしれない。その分、他の部所が予算的に活気を帯びる。
攻めの営業をするなら顧客の中の新規マーケットへ少し軸足をずらす必要がある。人は知っている人には暖かいが知らない人には冷たいものだ。顧客密着営業に慣れきっている販売員が未知の人に部所や取引先に積極的に訪問しようとすれば、断られる不安が先に立って強いストレスになる。
とくに平成生まれの販売員は人との関係づくりが苦手である。自然と新規の訪問から足が遠のく。それでも従来通りの顧客密着で売り上げが急に減少することはないが油断は禁物だ。密着していた人や部所とは違う人や部所からの需要が多くなっていたり、多くの仕事が従来とは違うベンダーでやっていたりするケースが増える。
だから、油断をするなと言われ新規訪問を試みるが、反応が弱く宿題をもらえなかったら再度の訪問はしない。このあきらめは強いストレスによる精神的不調からの自己防衛なのだ。無理強いは禁物である。されど成長するには新規訪問は必要だ。そこで強いストレスを緩和し適度のストレスホルモンの分泌を促せばいい。
そうするには心に多少の余裕がいる。余裕を作る一つの方法がある。それは無理して自らしゃべろうとせず自分流のやり方で相手にしゃべらせるコツをつかむことだ。簡単ではないが、①回数を重ねて経験を積むか、②自分の持ち味を生かし、それに合った準備をしてコツコツ始めるしかない。