2021年のFA・自動化業界の主役はコロナ禍ではなく、部材不足と納期遅れだった。春先から制御機器が不足し始めて納期遅れがじわじわと始まり、夏頃にはそれが目立ち始め、秋には決定的になった。いまは業界内外で部材不足と納期遅延は共通認識となり、遅れが解消して部材が手に入るようになったらすぐに生産できるよう準備を進めている。制御機器に何が起こり、今どうしているのか? を紹介する。
■続報 FA機器_納期問題続報(2022年6月29日号掲載)
【FA業界の納期遅延問題】配電制御機器、納期めど 明らかに 長期化で我慢続く正念場
メーカー各社対応どう進める
需要急増と天災被害で半導体の需給バランスが崩壊
半導体が不足して自動車が作れないという話はニュースなどでよく取り上げられていたが、まったく同じ時期にFA・自動化業界も半導体をはじめとする必要部材が不足して通常通りに制御機器が製造できず、納期遅れが発生していた。
半導体不足の原因は色々と取り沙汰されているが、根本は半導体需要の急拡大に半導体メーカーの生産キャパシティが十分に追いついておらず、はじめから需給バランスがギリギリであったことが大前提としてある。
IoTや自動運転や自動車のEV化、デジタル化にともなうデータセンター設備の増強、家電や住宅設備、業務用機器等のスマート化、産業機械のインテリジェント化など、デジタル化の進展にともなって半導体の利用範囲も数も加速する一方だ。
反面、半導体製造は緻密で繊細なプロセスであり、工場(ファブ)を立ち上げるには巨額の投資と長い年月が必要となる。そこで使われる半導体製造装置も同様。そのため需要拡大のスピード感に生産能力の増強が追いついていなかった。
加えて、世界各地の半導体工場が相次いで災害に見舞われ、生産に支障をきたして供給が滞った状況を悪化させた。
2021年2月の北米の寒波で米国の半導体メーカーの工場が稼働を停止したことに加え、世界最大手のTSMCをはじめ半導体の受託製造メーカーが多数存在する台湾では、2020年に台風が上陸せず降水量も少なかったことから深刻な干ばつ・水不足が発生。2月には台湾政府から水供給をめぐる非常警報が発令され、梅雨の時期には回復したが、製造プロセスに大量の水を使う半導体業界に少なからぬ影響を及ぼした。さらに3月には日本の半導体メーカー工場で火災が発生し、生産が完全に回復するまでに3カ月以上を要した。
もともと不足気味だったところに天災が重なり、2021年上期に需給バランスに大きなほころびが発生し、それが回復しきれずに来てしまったのが現在だ。
樹脂や銅も供給不足コネクタ・ケーブル生産も大打撃
また部材不足は半導体だけでなく、樹脂や銅線も不足気味となっている。樹脂は、2021年2月の北米寒波は世界大手の化学工場にも大打撃を与え、世界的な樹脂材料の不足を誘発。銅は、コロナ禍による供給量の減少に加え、脱炭素化と再生可能エネルギー、それによる新たな送電網整備に向けた銅線の需要拡大への期待で価格が高騰。もともとの供給不足と相まって不足気味となった。
これにより大きな影響を受けたのが、銅と樹脂を主材料とするコネクタとケーブル。部材不足と価格高騰で生産に影響をきたし、半導体と並んで入手困難な部材となった。
部材不足、納期問題をメーカーはどう捉えたか?
部材不足、納期遅れについて、FA・制御機器主要メーカー各社に聞くと「これまでに経験したことのない混乱ぶり」と皆が口を揃える。「お客様に納期問題を発生させて申し訳ない」と謝罪する一方で、「ある特定のメーカーや一部の地域で部材が足りなくなり、限られた範囲での納期問題が発生することは過去に何度もあったが、今回のように複数の部材が世界的に不足し、価格や物流も含めてこれだけ長期間にわたってめどがつかないのは経験がない」という。
供給不足が納期遅れを引き起こしていると思いきや、案外そうでもない。多くのメーカーで案件の発生と需要の急拡大で受注を獲得できており、21年度の業績は好調に推移。前年比大幅増で、過去最高売り上げという企業も多い。需要拡大も本物で、想定以上に伸びている。
あるメーカーA社では「上期に受注をして下期は納品となり、受注の勢いが落ちるのがいつものパターンだが、今年に限っては3Qも勢いが続き、4Q、来年度の受注も入ってきている」とし、受注が膨らんで受注残が通常時の2〜3倍まで膨らんでいるという。他のメーカーも受注残の状況は同様で、先行受注で22年度上期の売り上げベースはできており、早いところでは23年度の受注も入ってきているという。
受注好調の一方で、先行発注やダブル・トリプル発注の懸念もしており、過去最高業績と言っても楽観視できず、喜べる状況にないという声も多い。仮発注を避けるため、着手金として事前入金を課しているケースも一部で起きている。
とは言え、「部材が入ってこなくて生産が滞っている以上、いまできるのは状況が回復して部材が入ってきた時にいかに早く作ってお客様にお届けするかが一番。そのためにできることを進めている」とし、多くの企業が解消に向けた取り組みを進めている。
材料費高騰で利益を圧迫生産判断の難しさ
調達が難しくなっているとは言え、部品在庫の残りや少しなら手に入るという企業が多く、現状は量を調整しながら生産を継続しているメーカーが多い。しかしながら部材、特に半導体の価格は高騰しており、数倍から高いものでは100倍近くまで跳ね上がっている部品もある。そこへの判断は分かれており、「赤字で作るくらいなら止める」と無理な調達を避ける企業がある一方、「お客様との付き合いを考えたら生産は停止できない。ここで手に入れて作らないとお客様が離れてしまうため、赤字でも仕方ない」と泣く泣く高い価格で調達して製造するケースも。
また、このタイミングで生産の自動化に取り組み、生産能力の増強に取り組む企業も出て来ている。生産ラインの増設や自動機械の導入、また自社以外での生産も広げ、委託の外部企業を増やす動きが活発化している。需要の急増と、一気に膨らんだ受注を早く捌くための工夫として、生産能力の向上は必須だ。
納期回答に忙しい営業。次への種まきは大丈夫か?
現在、営業のメイン業務がお客様に対する納期遅延への説明となってしまっている。ニュースなどで部材不足が多く取り上げられているが、実際の状況は営業が説明するしかなく、多くの時間が割かれている。どのメーカーも同じような状況のためユーザーの無理な依頼やクレームにつながるケースは比較的少なくなっているが、それでも売り込むのが本職でありミッションの営業にとってストレスがたまっている状況が続いている。
さらに「納期対応に追われているため、来年度以降の種まきがまったくできていない。受注をさばき切った後のことを考えるのが怖い」と懸念する声が出てきている。数年のうちにこの受注過多の反動は必ず発生し、そのための種まきが必要となるが、今はまったく出来ていない企業も多い。反対に、新規客の開拓や種まきはマーケティングにまかせ、営業が顧客対応と分業できている企業は、この状況下でも両輪を回すことができており、今後に明暗が別れる可能性が出てきそうだ。
開発リソースを既存製品への設計変更に注力
納期問題の解消に向け、新製品開発から既存製品の設計変更へとリソースを振り分けているメーカーも出てきている。部品不足で作れない製品に対して、設計の見直しや部品点数の削減、使用部品の幅の拡大などを通じて少しでも作れる可能性を見い出そうとしている。特にシェアの低いメーカーの部材は市場に出回り、まだ手に入れられる可能性が高く、代替品としてそれらを使う動きが盛んになっている。
一部で効果が上がっているが、設計を変更して使用する半導体を変えたら、今度は標準品のコネクタが手に入らなくなったというケースや、ECで購入したら偽物や質の悪い半導体をつかまされたというケースも発生している。
ピンチをチャンスにした企業の共通点
多くのメーカーが部材不足と納期問題でピンチを迎えたが、一部ではこれをチャンスに変えてビジネスを拡大した企業も出てきている。
納期遅延を起こさなかったメーカーがいくつかあったが、彼らに共通していたのがメーカー・サプライヤーとの密な情報交換。当たり前の話だが、上流のメーカーと早いうちから情報連携をしていた企業は多めに在庫を確保することができ、今回の納期問題の影響も軽微に済ますことができている。
また製品設計を標準化して共通部品の使用や部品点数を削減していた企業や、製品を集約していた企業は、調達する点数が少なく、かつ1点あたりの調達ロットが多くできたため調達を有利に運ぶことができた。さらに別製品や異なる型番でも製品を流用でき、その柔軟性で部材不足の影響を後ろ倒しにできたケースもあった。
外資系メーカーでは、国内メーカーの部材不足が発生し製品調達に影響が出たタイミングで、コンパチ品や代替品の提案を強化して成功したメーカーもいくつかあった。グローバルの各拠点から製品を調達して国内に持ち込み、日本メーカーからの置き換え専任部隊を置いて積極提案をして置き換え需要を獲得。ユーザーも納期未定に困っており、いま手に入るものとして通常よりも採用ハードルが下がっており、そこにうまく入り込んだ格好となった。特にPLCやリレー、電源などで置き換えの事例が生まれていた。
22年上期まで続くか部材不足・納期遅延問題の解消時期は?
この状況の解消見込みは、各社によってバラバラだが、22年上期はこの状況が続くだろうと言う意見は共通している。好転して回復し始めるのは、早くて22年下期、23年という意見が多い。
今回の部材不足と納期遅延は1つの部材だけでなく、半導体や樹脂、金属など不足部品が多岐にわたり、加えて自動車や民生品、産業機器など各業界が限られたパイを取り合っている状況で、何が起こるかわからないという意見が多い。新型コロナウイルスの感染拡大もおさまり、部品の製造も戻ってきているというが、一方でオミクロン株によって再流行がはじまっており、先行きは不透明な状況になっている。
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