年の初めや期の始めには改まった気持ちになる。日本は年代表記に元号を持つ国である。元号の変わり目には一区切りの時代感覚が持てるので、新しいことをするきっかけになる。製造業の間で平成の終盤からバズっていたインダストリ4.0やIoT化だが、令和を契機に現場で実際に動き出している。FAとIT技術を融合して大幅に生産性を上げる現場が少しずつ作られていくだろう。機器部品営業にとってはチャンスが広がる。
販売員はこれまでにFAからややにじみ出すマーケットの技術者を積極的に訪問し顧客にする活動をほとんどやって来なかった。したがって平成で育った販売員が令和に生み出されるマーケットへ足を踏み入れていく時には、かなりの苦難を感じるだろう。営業の苦難とは比較できないが、戦場の兵士の肉体的苦難に関して『戦争論』には以下の記述がある。
「戦場という過酷な環境の中で生死を賭して兵士は肉体を極限まで酷使する。どの位の酷使に耐えられるのかと問われても一概に言えない」とクラウゼヴィッツは例を挙げて説明している。「ある一つの軍が負け戦となり、死を賭して脱出を試みる。その時、兵士の肉体は限界に達する。もう一つの軍は戦場で勝ち戦となって追撃戦に移る。その時、兵士の肉体は負け戦で戦場を脱出する兵士と同じくらい限界に達している。それでも追撃命令がでないのに兵士は自ら進んでさらなる過酷な状況の中に身を投じていく。戦場において肉体的苦難の限界は客観的に計ることはできない。それは主観的なものである」とクラウゼヴィッツは言う。「限界を超えても自ら進んでやる状況を作れれば身体は動く」と言うのである。
販売員がパソコン、スマホを持つようになって、顧客やメーカーから追いかけられるようになった。毎日が振り回されるという忙しさで疲れ果てることもあるだろうが、兵士の肉体的困難に比べられるものではない。多少割り引いて比較するものがあるとすれば、振り回される多忙の中で売り上げの月末締め切りの責任とさらなる売り上げ拡大のための新規開拓の遂行で受ける強いストレスだろう。
販売員は顧客やメーカーに振り回されて幾ら多忙を極めても、グチにはなるがそれほど苦にしてはいない。日々の忙しさはそれに慣れる訓練の場となっているからだ。ややもすれば忙しさが一時的に途切れるとやらなくてもいい過剰なサービスをしてしまう。それに反して売り上げの月末締め切りの責任で新規開拓の遂行のように精神的プレッシャーのかかる営業活動は「できればやる。できるだけがんばる」というスタンスであり、ゆるめである。軍の兵士は肉体的苦難に対するがまん強さを作り上げるために鍛錬を行う。販売員はどんな方法で精神的プレッシャーのかかる営業活動に対処すればいいのか。まず第一に多忙に流されないこと。第二に計画力を上げること。実際には目的をはっきり持って、その目的に沿った行動目標を数値化すること。次に①週間訪問予定表を作成する②目標数字への達成意欲を醸成する。
しかし達成意欲の醸成を一人ではなかなかできるものではない。組織あるいは同僚や仲間同士が「やってるか」「できたか」などと声をかけ合うことで達成意欲を作っていくのがいい。まずは週間訪問予定表の作成を習慣化し行動する。最初は思いつきで予定表を埋めてもいい。それでも達成すれば、脳内伝達物質のドーパミンが分泌して次も達成するように促してくれる。兵士が肉体的限界を乗り越えて自ら進んで追撃戦に向かうと同様なことが起こるだろう。
そうなれば顧客の週間訪問予定表も真剣に作るようになってくる。