【産業用ロボットを巡る 光と影(39)】ポジショナー/走行軸の強み弱みを把握せよ!商社/SIerの言葉に惑わされるな!

増加するポジショナー/走行軸の相談

当社は多くの企業のロボット化の相談にのっている。6軸の多関節ロボットの導入を検討している顧客から「ポジショナーも導入した方が便利か?」「商社やSIer(システムインテグレータ)から走行軸を紹介されたが導入してよいか?」という相談が増加している。しかし、「便利そう」「紹介された」という理由だけで導入すると、後で「別の方法にした方が効率が良かった」という後悔を招く可能性が高いので、そのことを記載したい。

ポジショナー でリスクを軽減?

ポジショナーは「1軸型」「2軸型」が一般的で、筆者は多くの工場で「2軸型」を見かける。多くの企業が「2軸型」を用いる理由は、リミットオーバー/特異点/干渉というロボットのリスクをかなり軽減できるからである。特に切断/バリ取り/溶接などの用途で、1つの製品を一筆書きしたい場合は、重宝される。

更に、ツールの進行方向に常にツールの向きが向いていなければならない(超音波カッターで切断したい場合、など)はポジショナーが必須に感じるだろう。ただし、この場合はロボットの先端に1軸を追加するという (筆者は「ツール軸」と呼んでいる)もので解決できる可能性がある。しかし、このツール軸はロボットメーカーが既製品を販売しているわけではないので、コストの注意が必要である。コストの件に関しては、後述する。

ポジショナーの弱点/注意点

次にポジショナーの弱点であるが、ダントツで良く耳にするのが「ティーチングが非常に難しい、特に同期(ロボットと連動)させたい場合はなおさら」で、筆者も同感である。ティーチングソフトで簡略化をしようとしてもズレが生じる。なぜなら、ロボットとポジショナーは別々の機械であり、「ツールの先端の位置や姿勢」と「ワーク位置」をお互いに完璧に把握できないのだ。よって、当社以外のソフトで簡略化に挑んでも、現場でティーチングを1からやり直しになるだろう。

次に注意点だが、先ほど「リミットオーバーを軽減」と記載したが、そのためにはポジショナーとロボットの位置関係が非常に重要である。いくつかの工場で、ポジショナーの位置が適切でなかったため、ティーチングの際にすぐにリミットオーバーになってしまい、ロボットで加工したいワークの内1割しか加工が出来なかったという事例を目にしたことがある。この問題を起こさないためには、ポジショナーの種類やロボットからの位置を確定させる前に、ティーチングソフトを用いて「3次元的に検証」することが必須となる。ところが、この重要な検証を日本のSIerはやってくれない。よってソフトでの検証は、顧客が自らやる必要があり、その時にサンプルのワークではなく実際に加工するワークを用いて行うことも重要である。

これらの事前の検証を怠ると後で大変な問題(上述のリミットオーバーだけでなく、加工製品の出来栄えを悪くする)を生ずるので、導入(発注)前に必ず行ってほしい。

走行軸の強み/弱み

次に走行軸だが、ロボット自体が走行軸にのってに動くので、加工の場合、長いワークを一筆書きで切断/バリ取り/溶接など行うことができる。

しかし、産業用ロボットは小型以外は見た目以上に重たいため、素早く動かすことができないので、効率が良くない。

筆者は日本中の工場で多くの走行軸の設備を見てきたが、「走行軸でロボットを動かすよりも、複数のロボットで作業した方が圧倒的に効率が良い」という設備を良く目にする。そのことを設備の担当者にたずねると「商社やSIerから勧められたので、こうなってしまった」という回答が返ってくる。このパターンは、北海道から九州まで同じでうんざりする。

走行軸を勧める商社やSIerに従うと無駄なコスト!?

ではなぜ、商社やSIerは複数のロボットではなく、走行軸を顧客に勧めるのであろうか?これを述べると筆者の敵がますます増えるが、結論から述べると、利益率が非常に高いからである。ロボットやポジショナーだけの販売では、ロボットメーカーが指定するマージンしか利益がない。しかし、走行軸(や前述のツール軸)は価格を自由に決めることができる。顧客がロボットの素人であれば、「走行軸は見た目が立派で、高額な加工機に似ている」と思うらしい。そこが落とし穴で、高額な請求に納得してしまうというカラクリだ。これで効率が良ければまだよいが、複数のロボットを使うより効率が悪いことが判明すれば、泣きっ面にハチだ。

走行軸の価格は、サーボモータからロボットを1から製造した筆者からすると、設計と製作そして現地工事費やマージン込みでも概算で500万円くらいのモノが、実際は1000万円以上が多い。親しみやすい例を挙げると、150万円の軽自動車を3~400万円で買う感覚だ。

ちなみに、各ロボットメーカーが走行軸を販売しないのは、製品化してもポジショナーのように標準化出来ない(走行ストローク、構成等の変更が多い)上に台数が出ないことで、メリットが少ない(個別に製作するものとコストが変わらない)ことが主な理由である。しかし、その理由を言い訳にして、走行軸を高額にして良いわけではない。

さて、もちろん走行軸にした方が効率が良い場合もあるが、素人ではなかなか正しい判断ができないだろう。当社で良ければ遠慮なく相談してほしい。

◆山下夏樹(やましたなつき)

富士ロボット株式会社(http://www.fuji-robot.com/)代表取締役。

福井県のロボット導入促進や生産効率化を図る「ふくいロボットテクニカルセンター」顧問。1973年生まれ。サーボモータ6つを使って1からロボットを作成した経歴を持つ。多くの企業にて、自社のソフトで産業用ロボットのティーチング工数を1/10にするなどの生産効率UPや、コンサルタントでも現場の問題を解決してきた実績を持つ、産業用ロボットの導入のプロ。コンサルタントは「無償相談から」の窓口を設けている。

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