コンピュータは、入出力と、記憶領域となるメモリ、演算制御のCPU、電源で構成される。この構成は産業機器に使われるPLCでもHMIでも産業用PCでもモータコントローラであっても基本的には同じ。各要素の間でデータをやりとりすることで仕事ができるようになる。その意味ではデータをいかに過不足なくそのままの状態でやりとりし、保存できるかが重要となり、そこにも高信頼性の産業用スペックが求められる。
スイスビット(日本法人スイスビットジャパン)は産業向けに特化したストレージ製品およびセキュリティ製品を提供するメーカーで、特にメモリ・セキュリティを専門とする。ヨーロッパのFA機器・産業機器メーカーを中心に幅広く採用され、DXへの取り組みが進む日本でも活動を強化している。
2001年シーメンスの半導体メモリ事業から独立
同社はもとはシーメンスの半導体メモリ事業を母体とし、2001年にMBOによって独立。本社はスイスにあり、ドイツとアメリカに開発拠点、ドイツ・ベルリンに製造工場を構えている。当初はUSBメモリなどコンシューマ向けとインダストリー向けを両方行っていたが、08年からはインダストリー向けに注力し、今はフラッシュストレージとセキュリティ製品に特化して事業を展開。日本では2004年から活動している。
産業用フラッシュメモリに特化
産業機器にはPLCをはじめ各種のコンピュータが頭脳として組み込まれ、高度な制御が行われている。さらに近年は、IoTやAI、データ活用でカメラやセンサといったフィールド機器が知能化・コンピュータ化し、エッジコンピュータのように現場に近いところでデータや情報を扱う領域も厚みを増している。
産業領域で使われるコンピュータ機器が急増するなか、同社は産業用に最適化した、データや信号を欠損なく確実に書き込み・読み出しができ、長寿命のメモリを提供している。
「インダストリー用途ではデータを過不足なくやりとりできることが不可欠で、かつ長寿命が求められる。それを実現するには専用のコントローラが重要で、当社はその技術を持っている。インダストリー向けのメモリ専業メーカーとして、高い信頼性と長い耐用年数、お客さまの用途に応じたカスタム最適化を通じて、ビジネスとトータルコストの低減を提供している」(友森健一郎代表取締役社長)という。
世界にはメモリメーカーはいくつもあるが、産業用に特化しているメーカーは少なく、その点でも貴重な存在だ。
「半導体メモリは大手メーカーを中心に競争が激しく、彼らはスマートフォンやPC、サーバーといったロット数が多い汎用品が中心。インダストリー向けはそれらに比べてロット数が圧倒的に少なく、顧客に応じたカスタムとサポートが重要となり、大手はあまり力を入れていない領域だ」(友森氏)。
欧州で高いシェア 高信頼性メモリと セキュリティ強み
現在、同社が提供している製品群は、SDやCF/CFASTカード、USBのようなスティック型と、基板型のモジュール&ドライブ型(SATA、PCIe/NVMe)、半導体パッケージとして提供する組み込み型(eMMC、PCIe BGA)の3種類。ドイツ・ベルリンにある自社ファブ(工場)ですべて製造し、インダストリーを中心に、情報通信、IoT、車載向けに展開している。
近年はデータ保護やライセンス管理等ができる、メモリとセキュリティを組み合わせた高機能製品が順調。先日も、AES256ビット暗号化とデータ保護機能を持つセキュリティSDメモリカードが、フエニックス・コンタクト社のPLCnext Controlのソフトウエアライセンス管理に採用された。
「事業領域として最も大きいのがインダストリー。ヨーロッパではほとんどのFA機器メーカーに採用されている。5Gとその基地局が増え、組み込みIoT、医療機器も活況。車載でもセキュリティ機能付を供給し拡大を狙っている」(友森氏)。
日本市場を強化 高付加価値な FA機器サポート
日本ではインダストリーを中心に活動を強化。日本はFA機器メーカーが多く、彼らへの浸透を狙う。機器に搭載しているメモリの状態をリアルタイムに把握し、いつごろに寿命を迎えるか予測できる「寿命監視ツール」や、電力が不安定になっても既存データには影響を与えない「電力損失保護ソリューション」を提案の切り口とし、より信頼性の高いFA機器の実現をサポートする。
「ヨーロッパでは知名度は高いが、日本ではまだ浸透できていない。テクニカルサポートとカスタマイズ、少量から大量まで対応できるサプライチェーンを構築し、日本市場での認知度を高めていく」としている。