省工数の切り札 スプリング式増加
電磁開閉器(マグネットスイッチ)の需要が拡大している。工作機械や半導体製造装置、ロボットなどのモータ関連の需要が急速に回復しているためだ。加えて、IoT関連をはじめとした社会インフラ関連も投資が継続して需要を下支えしている。製品傾向は小型・薄型化、低消費電力化、省工数などをポイントに、高圧のDC(直流)化への対応など、地道な開発が継続している。市場はメーカーの寡占化が進みつつあるが、各社が得意市場を有し、グローバル視点での取り組みが継続している。
電気回路の開閉制御を行う役割を果たす電磁開閉器は、電磁石で接点を開閉する電磁接触器(コンタクタ)と、電動機の過負荷保護を行うために熱を利用して動作する熱動型過負荷継電器(サーマルリレー)を組み合わせている。モータなどを使用した機械、装置、設備には必須の機器として使われ、負荷のON/OFFや、過負荷電流が流れて機器の回路が焼損する事故を防止する大きな役割を果たしている。
工作機械、半導体・液晶製造装置、エレベーター、鉄道機器、船舶、空調機器、PV(太陽光発電)システム、配電盤など幅広い分野で、モータの起動・停止、照明・ヒーターなどのON/OFFなどで使用されている。
日本電機工業会(JEMA)の産業用汎用電気機器出荷統計によると、2021年(1~12月)の出荷額は275億2900万円(前年比118・9%)と前年から約44億円増加した。21年は毎月20~25億円をコンスタントに維持し、前年同期比2桁増で推移している。単価の下落、海外生産の拡大などでこのところ市場規模は縮小傾向にあったが、このところの旺盛な設備投資から上昇基調にある。
コロナ禍は継続しているものの、欧米や中国などの主要市場の景気が急速に回復したことで、工作機械や半導体製造装置、ロボットなどの需要が急増。加えて半導体の生産が需要に追い付かないことや、コロナ禍のロックダウンの影響で部品・素材の不足が顕著になって納期が長期化している。金属や銅などの原材料価格も高騰しており、各方面に大きな影響を与えている。
さらに、カーボンゼロ社会実現に向けて自然エネルギーであるPV(太陽光発電)や風力発電活用への動きが強まっている。一般家庭でもPVを利用して売電から蓄電池などと組み合わせて自家消費用として導入するケースも増えており、電磁開閉器の需要につながっている。加えて、IoTに対応したビッグデータや5G通信に関連する情報化投資の増加が見込まれているが、とりわけ大型のデータセンターの建設への期待も高い。
電磁開閉器は技術的にほぼ完成の域にあると言われながらも、依然開発・改良が進められている。最近のポイントは小型化、省エネ化、グローバル化対応、省配線化と配線作業性の向上、安全対策などに重点が置かれている。
電磁開閉器でいま最も注目されているのが配線端子構造の変更だ。人手不足や熟練技術者の減少などから盤への機器取り付け作業の省力化が大きな課題になっているなかで、配線部に圧着端子を使用しないスプリング式を採用するメーカーが増えた。今までも、省配線化と配線作業性の向上では、端子の配線ネジを外さなくても配線できるようにしたり、バネを使って仮止めが容易にできるようにしたりと、工夫している。しかし、作業性の良さ、接続信頼性から欧州タイプの圧着端子を使わないスプリング式の優位性の評価が定着したことで一気に変化した。棒線、より線がそのまま使用できることから、電線の被覆作業やねじ締め付け作業などが不要で、配線作業性が大幅に向上する。初心者でも熟練者でも作業スピードには大きな差が生じづらく、接続信頼性も高いことから増し締めといったメンテナンス工数も省ける。端子幅も電線の太さ分で良いことから、省スペース化にも貢献する。海外市場はスプリング式の配線が定着していることから、国内向けと海外向けで2つの方式を使い分ける必要性もなくなる。
日本では官公庁の設備向けで、圧着端子の使用を配線設備基準で求めている部分が残っていることから、以前障壁は多いものの、人手不足などの外的な要因も加わり、今後配線方式は大きく変化するものと見られる。
小型・薄型化の取り組み進む
一方、小型化への取り組みも進んでいる。制御盤の小型・薄型化に対応したもので、10Aフレーム以下の小容量タイプでは、横幅27㍉を実現した製品も登場した。収納スペースの削減と駆動電力の低減にも貢献する。電磁開閉器の小型化には、開閉時の高温ガス放出構造やアークランナーの形状最適化など設計上の難しさが伴う。しかし、多数個並列して使用することが多い電磁開閉器では一個の幅を少しでも削減できれば、盤全体では大きなスペース削減効果を生み出す。装置全体の小型化志向が続く中で電磁開閉器の小型・薄型化は制御盤の小型化につながり、装置全体にも波及してくる。
電磁開閉器の小型化は同時に、環境配慮と素材の節約にもつながる。電磁石の改良では、巻き線の工夫に加え、吸引力のばらつき抑制、コイルの温度上昇などを行うことで、電磁石容量で約15~30%の省電力化を実現している。
しかし小型化を進める上では、開閉時に発生するアーク対策も技術上の課題になる。アーク対策を行いながらアークスペースを削減するために各社独自の消弧構造を採用して、省スペース化と安全性、確保に取り組んでいる。
省配線化の一環として、電磁開閉器の主回路の高さを統一することで、専用ブスバーによる一次側渡り配線ができるようになっている。これにより、配線数が大幅に減らせ、配線作業時間の短縮と誤配線の防止につながる。ブスバー設置状態はむき出しになっているが、このブスバーにメッシュ状のカバーで覆って安全性の向上を図る動きも見られる。
さらに、可逆型電磁接触器に、電気的インターロック用配線を内蔵したタイプも開発されており、インターロック配線が不要になるほか、スペースもほとんど同じで済むため、内蔵スペースを有効に生かせる。
安全対策では、端子部に不用意に接触しないように感電防止構造を採用した製品が一般化、不用意な接触によって誤作動したり、異物が本体に侵入したりしないように保護カバーを標準で装備している。そのほか、制御回路と主回路の誤配線を防ぐために、それぞれの端子色を変えることで分かりやすくしたり、主回路と補助回路の端子配線の干渉防止と作業性向上へ端子配列を工夫した設計も行われている。
電磁開閉器の接点溶着が発生した場合でも、安全開離機構(ミラーコンタクト)として、補助接点が確実に作動する機能も内蔵しており、事故の防止を図っている。
一般的に電気回路には、配線用遮断器、電磁接触器、サーマルリレーが使われ、短絡事故からの電線保護、電動機の過負荷保護などを行っているが、これらの省スペース化と省配線化を実現できるモータスタータの動向が日本でも注目されている。配線用遮断器、電磁接触器、サーマルリレーの代わりに、モータブレーカと直流低消費電力型の電磁接触器を採用することによって取り付け面積を、従来の3分の1まで削減することができる。
モータブレーカと電磁接触器を専用パーツで一体化しているために、従来の配線用遮断器と電磁接触器を電線1本1本で配線する作業も不要になり、配線時間を従来の半分に削減することが可能になるなど、トータルコストダウンに効果を発揮する。モータスタータをモジュール構造にすることで、オプションモジュールとしてセーフティリレーユニットもバス接続する製品も登場している。SIL 3の安全レベルにも対応でき、モータ制御の安全対策につながることが期待されている。
モータスタータは欧米を中心に普及しているが、日本では配線方式や電圧の違いなどからあまり普及していない。しかし、日本から海外市場に向けて輸出する機会が増加する中で対応が求められており、関連メーカーは計算方法など実際のマニュアルなどを準備しながら対応を図っている。加えて、原材料や電子部品不足などからこのところ電子機器周辺部材の調達が長期化していることから、構成機器が比較的少ないモータスタータの採用機運が高まっている。
電磁開閉器は、電気機器に欠かせないモータ需要にほぼ比例することから、今後も安定した市場が見込まれる。DC市場の創出への期待も高く動向が注目される。