3月9日から12日まで国際ロボット展(IREX2022)が開催された。新型コロナウイルスのまん延防止等重点措置の発令下で向かい風が吹く中だったが、4日間で6万2388人の来場者を集め、盛況のうちに閉幕した。国際ロボット展の会場で撮影した写真とともに、今回のトレンドを振り返る。
メーカー色 鮮明に
今回の国際ロボット展では、良い意味で、各ロボットメーカーが自社の強みや特長を活かした展示が多く、メーカー色が強く出ているのが印象的だった。ほぼすべてのメーカーがスカラロボットや6軸多関節ロボットを取り扱っていて、本体に少しの性能差はあっても圧倒的な違いがあるわけではなく、そこだけ見ればほぼ横一線。しかしながら、出展しているアプリケーションや特別展示を見て比べると、各社がどこに強く、力を入れているのかが理解しやすい。今回はそこが鮮明に出ていた。
例えば三菱電機。三菱電機のロボットが得意とするのは中小型ロボットを使った組み立て作業等で、人が手で行なっている作業を自動化する領域だ。しかし本来は、シーケンサやサーボ、センサ等のフィールド機器を豊富に揃え、かつCC-Link IEを中心としたネットワーク技術があり、HMIやSCADAなどデータ活用や見える化のシステムまで持っている総合電機メーカー。ロボットを使った1作業工程というよりも、ロボットシステムを組み込んだ一連の自動生産ラインの構築までできるのが本来の強みであり、今回の国際ロボット展でも、メインのデモラインはそれらを駆使したものとなっていた。
三菱電機のメインのデモラインは、キャスター付き架台に載せた産業用ロボットを並べ、それらを高速で省配線のCC-Link IE TSNでつないで一連の生産ラインとし、ロボットだけでマウスを作るというデモ。その生産状況や機器の状態はSCADAで可視化しており、国際ロボット展で主役はロボットだが、実際は「三菱電機のFAの総合力」がわかる展示となっていた。
同様だったのがオムロン。センサなどのインプット機器(I)、PLCやコントローラ等のロジック機器(L)、モータ・ドライブなどのアウトプット機器(O)、ロボットのR、安全リレー、セーフティコントローラなどのセーフティ機器(S)の、いわゆる製造現場を構成しているILORSの各機器をすべてラインナップしているのは同社だけであるとし、それらを使ってオールオムロンで機器同士の親和性を活かして生産性を高めたデモ設備やラインを展示訴求していた。特に今回の目玉は、それらの機器をまとめて1つで制御できる統合コントーラ。1つの頭脳に情報と指揮系統を集約させることで、これまで以上に高い生産性を実現できるとしていた。
セイコーエプソンは「小省精」で小型・精密用途に強く、スカラロボットの世界シェアナンバーワンとして有名だが、一方で、センサ素子から作っているセンサメーカーとしての一面も持っており、今回は自社のセンサ技術をロボットで活用した例が印象的だった。
例えば水晶を使ったジャイロセンサ。回転方向や回転角度、振動などを検知するセンサで、スカラロボットの新製品「GX8/GX4」のアーム先端部に搭載。通常は各軸に取り付けてあるエンコーダによって位置の検知とそれをもとにした制御を行い、従来機種はそれだけでもトップクラスの高精度を実現しているが、新製品ではさらにジャイロセンサからワークに接する先端部の振動等の情報を追加することによってより高精度の制御を実現した。
【ヤマハ】搬送に焦点
ロボット各社のなかでも、最も尖っていたのが「ヤマハ発動機」。今回は搬送に焦点を絞り、「μ to km」というコンセプトで、生産設備におけるμmの搬送から、工場内搬送や屋外搬送でkmの自動搬送を可能にする各種ロボットや自動運転ユニットを展示。初めて、FA・ロボットの事業部と、ゴルフカートなどのモビリティの部門の共同出展のような形になり、バイクやボートなども含めて、移動を支えてきた企業として原点回帰が感じられた。
安川電機とファナックは、上記の各社に比べて小型から大型まで製品の幅が広く、いわば総合ロボットメーカーであることが強み。豊富なラインナップとアプリケーション展示による訴求が目立った。
進化した協働ロボット
【ファナック】「協働」拡充
協働ロボットは、可搬重量の広がり、高速化、より緻密な作業へのアプリケーション拡大など技術の進化が感じられた。
今回、ファナックは協働ロボットの新製品を4機種発表し、一気にラインナップを拡充させた。緑のロボットのCRシリーズに可搬重量35kgの製品を追加。これにより4kgから35kgまで揃った。CRXシリーズでは小型の5kg可搬と、20kg、25kg可搬の3機種が増え、こちらも5kgから25kg可搬まで揃い、一般成人が持って運ぶような領域はカバーした。
安川電機は、今回に合わせた新製品として、これまでと同じ10kg可搬だがアーム長を短くして、小型でパワフルという新領域を開拓。また導入意欲が高く、有望市場と言われる食品業界向けに最適化したオールステンレスで洗浄できるタイプも展示した。
協働ロボット業界をリードするユニバーサルロボットは、プラグアンドプレイで簡単に接続して使い始められる周辺機器群UR +を使ったアプリケーション中心に展示。
またピッキングやネジ締めなどの単純作業だけでなく、新たな使い方も展示。協働ロボットを使った溶接やカッティングなどのデモを展示し、協働ロボットの可能性を見せた。
また今回は未出展だったが、デンソーウェーブが、協働ロボットの弱点である動作速度の遅さを解消した新製品を発売。危険領域に誰もいない場合は高速動作し、人の接近を検知したらスピードが遅くなるようにして生産性を向上できるものとなっている。
自社内でオリジナルのロボット開発が簡単に
ついロボットの完成品メーカーに目が向いてしまうが、一方でロボットの各部分をユニット化し、それを組み合わせればロボットが出来上がる。部品メーカーを中心に、そんなキット化した製品も目につき、オリジナルのものを自分達で作って使うという新たな選択肢も出てきそうだ。
LMガイドをはじめ直動部品のトップメーカーのTHKは、このほど回転部品も発売開始。直動と回転を組み合わせればほぼすべての動きはカバーでき、直動メインからトータルの動きを作れる会社へと脱皮を果たした。
その特長を活かし、グループ会社のTHKインテックスが直動と回転部品に外装を施してキット化し、単品販売と同時にそれらを組み合わせてシステム化して提供するサービスを参考展示。
またIAIも電動シリンダと回転ユニットで作った生産設備や、電動シリンダの使い方の工夫によって高額なロボットを導入せずとも、ロボットシステムと同様の作業が安く構築できるといったデモ機を展示した。
また、カメラ・光学系大手のニコンもロボット向けにユニークな製品を展示。モータ、減速機、駆動回路、ブレーキ、エンコーダなどロボットの軸に必要なパーツをパッケージ化したアクチュエータユニット「C3 eMotion」を出品。通常の軸は1枚のところ、2つのエンコーダを組み込むことによって動作精度や安全性を高めているという。
FOOMA、国際物流展、ロボットテクノロジージャパンなど他のイベントも期待
このほか、人手不足が特に深刻でロボットの大きな需要が見込まれる物流や食品関係向けのロボット技術の展示が多かったことや、各社が独自に開発したAGV・AMRの展示が目立ったこと、力覚センサを使った難しい作業への挑戦が当たり前になっていたことなど、トレンドの種はたくさんあった。次回2024年開催時に、これらがどう変化したか、新しい技術はどんなものが出ているかなど興味は尽きない。
また、国際ロボット展以外にもロボットを見る機会は意外と多く、切り口を変えてみることも参考になる。
国際ロボット展はあくまでロボット技術の総合展示会で平均的でまんべんなく技術が揃っていたが、6月7日から10日のFOOMA国際食品工業展、9月13日〜16日の国際物流展などの個別の産業展では、それぞれの産業におけるロボットのより詳細なアプリケーションや独自技術などの展示が予想される。
また、ロボット関連の大規模イベントでは、6月30日から7月2日にかけて、自動車産業のお膝元である愛知県で、産業用ロボットと自動化システムの専門展「ロボットテクノロジージャパン」が予定されている。産業用に特化し、且つ産業の盛んな中部地方での開催する新たなロボット関連展示会として注目されている。
10月には、サービスロボットを中心とした「Japan Robot Week」が東京ビッグサイトで行われる。屋内と屋外、産業とサービスなど垣根が低くなる中、こちらも注目だ。