「たまごが先か、にわとりが先か」。何かを始めようとして悩んだ時にこの言葉がふと浮かぶ。その答えは学問によって異なるようだが、ビジネスの場において、この因果関係のジレンマに構っている余裕はない。どうせ答えなどないのだからライトな形でスピーディーにはじめて検証することが一番。勝ちパターンを見つけられれば継続して投資すれば良い。ダメそうなら止めるだけ。成功は結果論でしか語れない。実行したから成功したのだ。
サンワテクノスの「サンワテクニカルセミナー21」の基調講演は、安川電機の小笠原浩代表取締役会長兼社長だったが、講演のなかで、中国では電気が通ってない地域にも充電ステーションをたくさん作っていると言っていた。今後EVが普及するのは確実だから、電力確保の前に先に充電ステーションを作ってしまおうということらしい。ごく普通に考えれば、まず電気を通して、EVの普及状況に合わせて徐々に充電ステーションを作っていく。そうすれば失敗しないし、無駄も出ない。しかし中国ではそうではない。これを無謀ととるか、先見の明ととるか。
結果は後にならないと分からないが、成功したら一気にEV普及のレベルが上がる。これが中国かとあらためて感心してしまった。またEVで言えば、ヨーロッパは先にガソリン車の規制を強化し、車としてのEV普及を先行させようとしている。ステーションが先か、EV車が先か。どちらが良かったかの総括は後世に任せるとして、いずれにしても方針に対する実行力は目を見張るものがある。翻って日本の状況を見てみると、いつものようににわとりたまごの論争に終始している印象だ。絶対に失敗してはいけない、失敗したくないといういつものパターンにはまり、決断も実行のスピードも遅い。
EVに限らず、過去もこうした行政や社会の姿勢が産業界の足かせとなり、競争力を低下させてきた。後になって、あれがダメだった、失敗の原因だとはやし立て、結果、誰も得しない状況が生まれてくる。実行すれば失敗もある。しかし実行しなければ成功は生まれない。誰が何と言おうと、実行したことが評価される社会にならなければ、日本の製造業の復活はあり得ない。失敗したって良いじゃない。小さく始めればダメージも少ない。にわとりたまご論争にどっぷり浸かって、仕事をしているふりをするのはもう止めよう。