今年度(2022年)は劣化列島日本をテーマにシリーズで寄稿しているが、第5回目は、劣化列島日本の象徴とも言える『出羽守(ではのかみ)』に支配されたウクライナ報道を取り上げる。筆者はかねてより出羽守(ではのかみ)の弊害を提言してきた。出羽守(ではのかみ)とは、欧州では……、米国では……、と欧米の習慣や言動を常に引き合いに出す事を言う。出羽守は『欧米は日本より優れている』との前提があり、日本を自虐的に攻撃する事が多く、日本の優れた文化を破壊し、日本のアイデンティティーを消滅させる非常に危険な言動である。ところが、テレビを筆頭とするメディアも、出羽守の影響を強く受けている。
テレビ・新聞などの劣化については過去に取り上げたので本稿では割愛するが、最近のウクライナに関する報道は、米英の言動をうのみにする「米英崇拝報道」が繰り返されている。報道の内容は、戦況やウクライナの惨状であり、『平和なウクライナに、暴力的なロシア軍が攻め込んだ』という概念で報道されている。もちろん、大義も正義もないロシア軍によるウクライナへの軍事侵攻は許されるものではないが、ウクライナ国内の内乱事情や歴史的背景によるロシア視点には無関心で、戦況や惨状のみを報道するメディアのニュースソースは、すべて欧米からの受け売りである。日本政府は、ロシアへの各種制裁とウクライナ支援を一番乗りで決定した。日本の国益を熟考することもなく、一瞬でロシアを敵国として表明した日本政府の結論に疑問を持つ報道は少ない。ロシア側の視点で見れば、ロシアの敵国は、米国・英国、そして日本との順番が決定したことは間違いない。日本の国益や安全保障の観点から、隣国ロシアを敵国とすることが正しい判断であったのか?を冷静に考え議論するテレビ報道も少ない。
世界はしたたかである。欧州各国や欧州以外の各国も、国際社会の声に同調し「ロシア制裁」を表明しながらも、本音ではロシアとの関係悪化を危惧し、慎重な対応に終始している。即座に米英に追従する日本の姿は、「アメリカのポチ」と揶揄(やゆ)される「劣化列島日本」の象徴ではないだろうか?
2022年5月、日本は戦後最大と言うべき周辺国家の潮流変化に直面している。核保有の非友好国、中国・北朝鮮は日本にミサイルを向けており、ロシアも真の敵国に加わった。これからの日本は、世界に類のない「ぐるりを敵対国に囲まれた国家」として常に核の脅威にさらされる。出羽守が信奉する米国が『いざとなったら日本を守ってくれる』というお花畑的発想が崩れ去っているのは明白であるが、「劣化列島日本」のメディアはこれも報道しない。また、中国経済指標が戦後最大というべき瞬間的異変を示しているが、この事実に対する解析もなく危機感は薄い。驚くことに中国の統計でさえ4月度は前月から20%以上の急落となっている。トヨタの販売台数も30%以上の落ち込みとなっているので、実態は相当にひどい状態に突入したと推測される。これを『上海ロックダウンが原因』と断じるのは簡単であるが、5月に入って中国人の国外移動を極端に制限するなど、かつてはあり得ない国家規制が突然起きている。不動産の急落も、2軒目・3軒目の個人投資に膨大な税金を課すといった規制が発端となっているので、明らかに中国政府の政策変化を感じざるを得ない。
『風雲急を告げる』とはまさに今日の日本が置かれた状況である。奇跡的に訪れた130円時代をチャンスとして、日本のものづくりが復権する可能性も大きいが、半面で中国・北朝鮮・ロシアからの攻撃に直面し、予想できない大惨事に巻き込まれるかもしれない。
今、われわれ日本人に求められるのは、出羽守の呪縛から逃れ、日本人としての誇りを取り戻すことである。主権国家として自国の安全保障を(自国の力で)推進する一方で、130円という円安を武器に、「リショアリング(製造業の国内回帰)」を推進し、グローバル経済の発想を転換することで、世界一の製造強国への復権が可能である。日本の大手製造業は130円時代を迎え、再び世界を席巻する実力を持っている。円安には輸入コストのアップなどによる悪影響はあるが、総合的な観点からは絶好のチャンスであり、日本が一流国を維持する特効薬である。
筆者はかつて、ロシアの製造工場を何回にも渡り訪問した。民間企業の工場は、旧ソ連時代の国営工場の払い下げで成り立っている。驚くことに、工場の地下には巨大なシェルターが(例外なく)設置されている。米国からの核攻撃に備えたソ連時代の産物である。今日のロシアは、かつての設置したシェルターが各都市に現存し、今でも核戦争への備えを持つ国家であり、いつ核戦争が起きても不思議ではない。日本は、こんな国を敵に回し、軍事衝突に発展するような愚策だけは絶対にさけなければならない。ウクライナ報道をテレビで見るたびに、出羽守(特に米英への盲従)に危険を感じている。
◆高木俊郎(たかぎ・としお)
株式会社アルファTKG社長。1953年長野市生まれ。2014年3月までアマダ専務取締役。
電気通信大学時代からアジアを中心に海外を訪問して見聞を広め、77年にアマダ入社後も海外販売本部長や欧米の海外子会社の社長を務めながら、グローバルな観点から日本および世界の製造業を見てきた。