2021年の製造業は、コロナ禍のなかでも巣ごもりや自動化といった需要を捉え、業績は順調に推移した。しかし足元を見ると、危うさも見え隠れする。その一つが「労災事故の発生件数の増加」だ。2020年までの製造業の労働災害の発生件数はずっと減少傾向が続いていたが、2021年には一転して3000件近くの大幅増加。さらに2022年に入っても悪化が続き、「安全第一」であらためて気を引き締める必要がある。
2021年に発生した労働災害は、全産業は死亡災害831件(前年から55件増加)、死傷災害が14万6856件(1万9691件増加)。前年から2万件近くの増加となっている。製造業に限ると、死亡災害は1件増加の133件、死傷災害は2868件増加の2万8121件となった。
2006年から2021年までの15年間の労働災害発生件数(死亡災害件数+死傷災害件数)を見ると、2006年の3万件を最多として、2007年の2万9722件、2008年の2万8519件、2012年の2万8490件、2018年の2万8025件と、2万8000件を超えたのは、わずか5回。しかも年々減少傾向が続き、死亡事故は15年間で半減、死傷災害も5000件近く減らすことができていたが、2021年は一転して増加に転じることになってしまった。
一過性であれば良いのだが、2022年も悪い傾向は続いており、直近の2022年5月の速報値では、2022年1月1日から5月9日までに報告があった労働災害の件数は、全産業で死亡災害が227件(44件増)、死傷災害が4万8286件(1万1897件増)となり、製造業も死亡災害が52件(22件増)、死傷災害が7428件(515件増)と大幅な悪化が続いてしまっている。
どんな事故が起きているのかという型別では、「はさまれ・巻き込まれ」が最も多く、はさまれ・巻き込まれによる2021年の死亡災害は54件(11件増)、死傷災害は6438件(292増)となっている。そのほか前年から大幅に死傷災害の事故件数が増加しているのは、「動作の反動・無理な動作」が2823件(297件増)、「転倒」の5260件(248件増)、さらに「激突され」が1150件(120件増)、「激突」が1310件(100件増)、「飛来・落下」が1792件(81件増)と続く。「その他」も2211件(1812件増)と大幅に増加している。
コロナ禍と労働災害の増加の因果関係は不明だが、現場の安全への啓蒙と実践、制御機器や機械メーカー等の安全機能の充実などで労働災害を減らしてきたことは間違いない事実。安全意識に長けたベテランや熟練技術者が減り、代わりにロボットや自動機等の導入が進むなか、人と機械を協働、連携させるには安全、リスクアセスメントが今まで以上に重要になる。労働災害や事故の発生は、製造業からさらに人を遠ざけ、人手不足を加速させる。安全第一をあらためて心に刻み、現場から労働災害を減らしていく必要がある。