【教訓1】
社内の事情を突破しないと、良いニュースリリースにはならない!
はじめに
日本の企業は、欧米に比べ、営業部門や製造部門ほど、広報部門を重要視しない時代が長く続いていました。ある時期までは、広報室は企業のゴミ捨て場と言われていたそうです。特に、日本経済を支えてきた製造業においては、かつては「良いものを作れば売れる」という概念が強く根付いており、その良さをもっと多くの人々に伝えたいということに対して、興味が薄く、その風潮は令和時代となった現在であっても、根強く残っていました。
しかし、DX時代に突入した現在、ビジネスは共創により成り立つようになり、広報視点で社内のみならず、社外(社会)への情報発信が必要不可欠となりました。本コラムを通して、製造業における広報の在り方、有効な活用手段を伝えていきたい、そんな記事の掲載を目指しています。
おそらく、ものづくり企業において、広報担当者をきちんと据え、コーポレートコミュニケーション(企業広報)活動やマーケティングコミュニケーション(製品広報)活動をしっかりと展開している企業はそう多くはないのではないでしょうか?
ほとんどが総務の方が兼務で行っている、IR担当が片手間で行っているというような企業がまだまだ多いはずです。むしろ、製品を作っている部署の方が、製品をアピールしたい人にアピールしたいようにプレゼン資料やチラシを作るのが日常で、その内容をそのままニュースリリースとしてメディアに発信していることが多いかもしれません。私が担当してきたクライアントの多くは、そういう状況にあり、専門の広報部門を持っていないためにPR会社を雇う、もしくはPR活動の重要性を知り、部署を新設するので、サポートしてほしい、そんな依頼からPR活動を開始することが多くあります。
今回は、ある自動車部品メーカーでの出来事を例にニュースリリースを作成、完成させたエピソードを紹介します。
新任の広報担当がニュースリリースを作成
ある大手自動車部品メーカーの広報室に配属されたAさんの最初の仕事はニュースリリースの作成でした。「ドイツの大手部品メーカーA社の製品を取り扱うことになったから、現地から発信されたニュースリリースと、前にうちが出したニュースリリースを参考に今回のリリースを作っておいて、今日中に!」というオーダーが入り、その広報担当者の彼は、営業担当であった頃のパワーポイントのスキルを最大限に生かしてニュースリリースを作成しました。しかし、そのニュースリリースはメディアに向けて発信できる文体・内容ともにかけ離れていました。まさに、「チラシ」そのものだったのです。
これは、よくあるお話で、製品を製造している人がつくる資料と、メディアに向けて発信する資料は、根本的に公表する情報の切り口が異なります。いかに自社製品が良いのかという点を強調するチラシに対し、ニュースリリースは、あくまで客観的な視点で、その製品の良さや優位性をエビデンスをもってまとめる必要があるのです。
この広報担当者は、営業時代に培った“売れるチラシ”テクニックを駆使し、「どこよりもすばらしい自動車部品○○○を販売している△△モーターが、近々、ドイツのA社の世界一速く走ることができるエンジンをリリース。」というリードの原稿を作成しました。これには、ニュースリリースの基本である「5W1Hの要素」が入っていないのです。その文章を結論から述べる逆三角形に落とし込む」必要があります。
また、よくあるのですが、根拠の記載なく「どこよりもすばらしい」、「世界一速い」などと軽々しく使用してしまうケースも見られます。製品に対する思いや誇りからの表現であっても、それがどのくらいの時速があるから早いもの製品なのか、どの点がどのような根拠を持って素晴らしいのか、そのような“エビデンス”がなく、誇大表現が羅列されています。
このように記者からは、相手にされなくなるようなチラシを作成し、ニュースリリースとして発信することを“良しとする”会社がよくあるのが実態です。
ニュースリリースを発信するにはさまざまな障害がある
ニュースリリースは何とか完成しても、その先にも大きな壁が立ちはだかっています。ものづくりの会社には、組織間に厚い壁が存在していることもあり、広報担当者の意見がなかなか通らないことが多いのですが、この会社も例外ではありませんでした。広報担当が作成した文案を営業担当者が許可しないのです。もっと誇張した表現を入れるよう、そして“売りにつながる文言を入れること”を強く要求され、広報担当者がそれを押し切ることができなくなり、根負けして、まるで“チラシ”のようなニュースリリースを発信せざる得なくなることが頻繁に起こってしまうのです。
本来、新製品のニュースリリースや日本市場の販売開始などをテーマにした場合、狙っている市場や販売目標の記載が不可欠です。その記載を見て、記者がどのくらいのビジネスなのかを考え記事にするからです。しかし、ものづくりの会社の多くはその目標値の記載を嫌がります。「そこに書いてしまって、達成できなかった時に……」という不安がよぎるのか、取引先や顧客に気を遣わなければならない理由があるのか、また社内的な事情で必要事項を記載することができない企業も多いようです。そのため、この「目標値」に関する記載は、最終段階で消されてしまうことがあります。
ニュースリリースを発信するということ
ニュースリリースを発信するということは、まさに第三者であるメディアに向けて情報を発信し、その先の記者の目を通して書かれて露出が、潜在顧客の目に留まり引き合いにつながる、取引先から連絡が来る、就活生がその企業を知る、また、社内においても客観的に自社の価値を見つめ直す、さまざまな効果が期待されます。しかし、あくまで、客観的な目で提供された情報を選別し記事にする、文章のプロであるメディア(記者)に対して、情報を発信するということを忘れずに、原稿を作成することが求められます。
著者
株式会社VAインターナショナル コンサルタント
約40年にわたり、製造業をはじめ、様々な企業のコミュニケーション活動をサポートしているコミュニケーションコンサルタント会社。自動車や機械等の基幹産業をはじめ、製造業への参入を検討しているIT企業等、製造業にかかわる多くの企業のPR実績を有している。現在、「製造DXチャンネル」において、製造業に向けた有益な情報を発信している。