COVID-19の影響もある中、将来を期待されて入社した新人技術者。今年入社した技術者たちも、秋ごろになると会社での生活が大体つかめ始める一方、仕事に対するモチベーションが下がり始める時期でもあります。
さまざまな要因でモチベーションは低下しますが、比較的よくあてはまる要因の一つが、「自分が思うような仕事ができない(できていないように感じる)」というものです。
自分の力を生かせていないと感じる若手技術者
マネジメントの多くは、建前上は即戦力と言いながらも、入社数年以内の若手技術者に対して期待することは、「社内のネットワーク構築や社内基本業務の習得」が主となる場合がほとんどです。
知識も経験も不足する若手技術者にいきなり成果を求めるのは、ベンチャー企業や少数精鋭の零細企業を除いては、普通はありません。
しかし、希望を持って入社した若手技術者たちの中には、「自分たちは技術の専門家として華々しい成果を出すために就職した」と考える方もいます。
それは決して悪いことではなくむしろ望ましい視点ですが、「やったことの無い仕事で成果を出すには、ある程度の経験は必要である」という自分の立ち位置を理解しないで上記の理想ばかりを追い求めると、「理想と現実のギャップが大きすぎる」という失望に近い感情を持つようになります。
以下にモチベーションの下がっている若手技術者の心理や言動の例を示します。矢印の右側に示したのは、その背景にある要因です。
・なぜ自分は意味のないルーティンのような仕事ばかりなのだろう。→仕事に慣れ、新鮮味が薄れ始めると感じることが多いようです。
・上司や諸先輩がやっているような仕事をやりたいのに、なぜやらせてもらえないのだろう。→周りが少し見え始め、自分はもう少しできるのではないかという気持ちが出始めています。
・上司や先輩はなぜ、自分と距離を持ってしまうのだろう。もっといろいろ教えてほしいのに。→昨今のマネジメント層は技術者の育成に十分な時間を割く余裕がないケースも多く、また育成する側の技術者がプレーヤーにこだわる、または教育するのに必要な技術的経験が不足している、というケースも増えているのが、このような感情を持つきっかけになるようです。
上記のような発言や、それを示唆する言動が見られる場合、若手技術者は理想と現実のギャップを強く意識している可能性が高いといえるでしょう。
これからの若手技術者に求められる主導権を握るという姿勢
若手技術者たちはどのようにしてこの状況を乗り越えればいいのでしょうか。若手技術者に対する、効果的と考えられる助言の一つが、「技術的な専門性以外の打ち合わせやミーティングの主導権を握るよう努力する」というものです。
技術職である技術者の仕事は、どうしても経験によって蓄積された「知恵」やそれを担保する技術的な知見の鍛錬と実務経験が不可欠です。若手技術者と経験ある技術者間の差は簡単には埋まらないのです。
しかし、若手技術者が持つ理想に近づくためには、実務という実践経験が不可欠。そのためには、「足元の業務で主導権を握り、自らの存在価値を高める」という取り組みが必要となります。
自らの存在価値を高めていかないと、より上の目線で働くというチャンスがもらえないからです。
ではどうしたら存在価値を高められるのでしょうか。ここで若手技術者の方に着目してほしいのは、「打ち合わせ、ミーティング」です。打ち合わせやミーティングは、技術的な経験とはあまり関係がありません。
また、そもそも技術者は全体的に「打ち合わせやミーティングの進行が苦手」なのです。つまり、若手技術者であっても十分にその存在感を発揮できる場面といえるでしょう。
若手技術者が打ち合わせやミーティングで存在価値を高めるためには
具体的に若手技術者が打ち合わせやミーティングで存在価値を高めるために意識してほしいのは3点です。
1・打ち合わせの終了時間
2・打ち合わせの目的と決定事項
3・打ち合わせ議事録の作成 それぞれ概要を述べます。
1・打ち合わせの終了時間
技術者は全体的に話が長く、また、自らの専門に関する内容や、技術的に興味を持った内容について必要以上に時間をかける傾向にあります。
もちろん、そのような徹底した技術的な議論が必要なミーティングもありますので、その場合は良いのですが、基本的に打ち合わせには複数の人間が参加する以上、「参加者を拘束している」という意識が不可欠です。そのため、タイムマネジメントは若手技術者が担える代表的な業務の一つといえます。
2・打ち合わせの目的と決定事項
打ち合わせやミーティングは必ず目的があって始まります。多くの目的は「何かを決める」ということです。そして、その目的を到達したということは何かしらの決定事項があります。この目的と決定事項を対できるような状態で打ち合わせ会場で提示し、議論が発散しないようにするというのも大切な打ち合わせのマネジメントです。
打ち合わせやミーティングの場で、ホワイトボードやスライドで全員に見える形で「目的」と「決定事項」を記載し、それぞれが1:1で見えるようにしておくというのがポイントになります。
決定事項はそれが決まった段階で、「目的に対する決定事項としてこのように記載いたします。よろしいでしょうか。」という記載と発言がポイントです。このようなことも、若手技術者は十分に意識すればできることです。
3・打ち合わせ議事録の作成
私の知る限り、年齢にかかわらず、多くの技術者がまともに書けません。言い換えると、若手技術者でも鍛錬すれば十分に有意性を確保できる業務といえます。打ち合わせでは言われなくとも積極的に議事録を書き、それを出席者に共有するということを行わせましょう。
このような文章作成力は、出張報告書はもちろん、技術者として最重要の文書である、「技術報告書」の作成スキル向上にもつながります。
これらの実績により若手技術者は自らの存在価値が高まっていると実感し、理想に近づくためにやるべきことを一つひとつ積み重ねていくという気持ちの余裕と、前進するモチベーションが出てくると思います。
モチベーションの下がり始めている1年目や入社数年以内の若手技術者を引き上げるには、自らの存在価値を見いだしてもらうのが最適です。
しかし、若手技術者の多くは、「マネジメントが何かしてくれるのではないか」という他力本願の人が多いと感じることが多いです。
これが時代の流れなのか、昔からなのかはよくわかりませんが、それを否定するよりも、どうすればそれを乗り越えられるのかという道筋を教えることは、マネジメントとしてもできることであり、やっておいた方が後で技術者集団としての戦力が上がるといえます。ご参考になれば幸いです。
【著者】
吉田 州一郎
(よしだ しゅういちろう)
FRP Consultant 株式会社
代表取締役社長
福井大学非常勤講師
FRP(繊維強化プラスチック)を用いた製品の技術的課題解決、該関連業界への参入を検討、ならびに該業界での事業拡大を検討する企業をサポートする技術コンサルティング企業代表。現在も国内外の研究開発最前線で先導、指示するなど、評論家ではない実践力を重視。複数の海外ジャーナルにFull paperを掲載させた高い専門性に裏付けられた技術サポートには定評がある。
https://engineer-development.jp/