FA業界は新型コロナ感染症の影響を受けながらも、世界的な景気回復を追い風にしながら、高原状態で好調を維持している。半導体や金属、樹脂材料の品不足と価格高騰、好調な経済状況に伴う雇用拡大で相変わらず人手不足が続いており、景気の腰折れにはなっておらず、依然受注先行の状況が継続している。これに円安/ドル・ユーロ高が加わり、輸出企業を中心に為替差益の恩恵を受けているところが多い。
しかし、現在の円安水準は、輸入価格の上昇につながっている。海外からの調達が多い原油や金属、食材関連は確実に輸入価格の上昇につながってくる。日本は海外輸出で外貨を稼いでいる面が強いだけに、現在の為替水準を喜んでいる企業が多い半面、逆風を受けている企業も多い。現在のところ、旺盛な需要と異常な受注の膨らみもあり、納期対応優先で輸入価格の上昇分を販売価格に転嫁することで利益の減少を抑える対応が全体として受け入れられている。
同時に、急速な円安進行から海外工場での生産を国内の工場に戻す、あるいは海外工場立地計画を変更し、国内で検討する企業も増えている。経済産業省の国内工場立地動向調査では、2021年は件数、面積とも20年の底から反転し、プラスになった。円高時に目立った為替や人件費対策からの海外工場進出も、現在の海外工場の人件費上昇と急速な円安進行下では、「地産地消」という大前提があってもなかなか海外への工場立地は決断しづらい。いまの状況下では、国内工場で自動機などを活用して生産した方が何かと利点が多いという帰結になってしまう。
約10年前の2011年に、円は1ドル約75円と過去最高の円高水準になった。それまでも1ドル100円を切ることは何回かあり、そのたびに海外への工場の生産移管が進み、国内産業の空洞化が大問題になった。海外に工場を移管できる体力と人材を多く有する大企業は対応が容易であるが、中小企業にとっては大きな決断になる。とくに大企業からの仕事の割合が多い協力工場は大企業と一緒になって海外へ行かないと仕事がなくなってしまうことになる。
さらに、これらの企業と取引のあるFA・制御機器の商社も決断を迫られた。国内FA市場の成熟化と産業の空洞化が進み、今後の戦略を海外市場開拓か、国内市場の掘り起こしを進めるかの判断である。数社の大手FA商社はアジアを中心に拠点を開設し海外市場開拓を進めたが、大半は国内市場の掘り起こしを選んだ。大手FAメーカーも海外市場重視の方針を強めたことで、国内商社は統合・再編や、販売店契約解消するなどの動きにつながった。
そして現在の円安水準下でFA商社はどんな手を打つか。円が1ドル110円~120円の水準が続いた20年頃から、海外の拠点を縮小・撤退するFA商社増えている。新型コロナで海外往来の規制から十分なサポートできないという背景もあるが、工場の国内回帰で海外拠点の設置メリット少なくなっていることや、海外でのローカル商社と競合が激しくなっていることが挙げられる。
産業の国内回帰が進んでいるとは言え、FA機器の需要がGDP(国内総生産)の伸びの3倍前後という高い水準で拡大していた1970~80年代に比べると伸びは鈍化している。過去何度か経験してきた、オイルショック、プラザ合意、バブル崩壊、リーマンショックといった経済変革のなかを多くのFA商社が果敢に生き残ってきた。
FA商社の主な役割は、在庫、配送(デリバリー)、情報提供・収集、金融(与信)などがあげられる。また、エンジニアリング力やソフトウエア・システム開発力なども求められている。いまもこの役割を確実に果たすことが最低限必要であるが、現状いびつな役割しか果たしていないFA商社も見られる。財務を優先した極端な在庫圧縮や、メーカーや顧客との情報交換力の低下傾向などだ。FAメーカーは商社を介さない直販志向の戦略を強めるところが増えつつあり、さらにネット販売の比率も高まりつつある。産業の国内回帰が増えつつあるものの、いままでのようにその分がすべて売り上げとして見込める保証はない。ハードウェアだけでなく、ソフトウェアやソリューション力の割合も高くなってきており、営業手法も変化している。
FA商社にとって次の経済変革に備え、繁忙極める今こそ役割を見直す絶好の機会といえる。
ものづくり・Jp株式会社 オートメーション新聞会長 藤井裕雄