アメリカ映画の西部劇が全盛の時代によく出てくるシーンがある。騎兵隊マーチが流れ、隊列を組んで前進する隊が隊長の号令で一斉に止まる。この先の地形はどうなっているのか、敵対するインディアンが待ち伏せしていないか等を探らせるために一、二名の隊員を選んで斥候に出すシーンである。斥候に選ばれた兵は状況によっては追跡や攻撃をするが主とする役目は偵察である。したがって斥候の優劣は隊の安全にかかわっている。令和の製造業はどんな展開をするのか、機器部品業界はどうなるのか等のマーケット状況をどの様に見るかによって販売体制や販売の戦術、戦法が決まっていく。
前回少し述べたように営業所をふやして地域密着型で行くのか、デジタル機器を活用した営業のデジタル化で行くのか、IOT化をトータルで提案するシステム提案型で行くのか、ロボットや情報機器といった分野へ向っていくのか等それぞれあるだろう。しかし一般の販売店は方向性を明確に決めかねて、それらの要素を加えて現状強化営業を進めるようになるだろう。販売員に掛け持ちの追加ミッションを与えても結局従来通りの営業にひっぱられて新しいミッションはなかなか根付かない。だからといって折裏型の組織を作るには資金や人が足りない。こういう場合には世間の流れに引っ張られずに販売員を斥候兵にして顧客の実際を偵察するところから始めるのがいい。
しかし現在の販売員は斥候能力を持つようには鍛えられていない。顧客の様子を探れという指示を出しても、最近仕事が少ないとか忙しいとかの景気動向や改造の仕事が多いとか機能を追加した新製品の設計を手掛けている等のざっくりとした仕事内容の把握くらいな事である。景気の動向にしても、仕事の内容にしてもなぜその様な状況になっているかは聞こうとしない。この事は売上には関心はあるが、顧客自身には関心がないからである。このような斥候能力不足は安心感から来るものなのだ。歴代の営業担当者が長い月年をかけて顧客との関係を築いてきた。
だから売上不振の時でも考えて思いつくような営業活動、例えばそれまでの力の入っていなかったメーカー商品の拡販やメーカー商品の切り替えの強化営業などを実行すれば顧客はいくらか応えてくれる。結果的に売上は回復するから顧客を深く探るまでには至らないのだ。その様なありがたい顧客に囲まれて売上は安定していた平成時代であったが今後ともありがたい顧客でいるかどうかわからない。つまり現状の顧客から出てくる商談テーマの進捗を厳しく管理しても顧客に関心を向けない営業では大きな伸びは見込めないのだ。その裏付けの一つとして、顧客の売上を伸ばすために、新商品を紹介するがあまり興味を示してくれないと販売員は感じている事だ。
販売員がその様に感じるのは正しいのだが顧客に向いている良い商品がないと思うだけで販売員自身の斥候能力不足に関係あるとは思っていない。顧客に関する事情といえば過去から築かれてきた信頼関係や過去の担当から引継いだ情報で止まっている。そのために実際には顧客事情がわからなくなっている。よくわからなくて不安がある時は斥候兵を出して前進する騎兵隊を見習うべきだ。
販売員に斥候能力不足を感じてOFF-JTで教えるのもいいが一番いいのは営業活動に斥候の訓練項目を入れることである。以前述べた昭和時代の三新運動は新商品、新需要、新用途の三ツの新を掲げて売上拡大を計った作戦であった。結果として売上は伸びたし販売員の斥候能力も上った。日々営業活動のやり方次第で斥候能力の訓練はできるのである。