人手不足のなか、自社を選んで入社してきてくれた新入社員は、いわば「金の卵」。だからといって過剰におもねる必要はないが、できるならば長く勤めて会社の将来をになって欲しいというのは誰しもが思うところ。とは言え、デジタルネイティブでZ世代とも言われる10代〜20代、特に会社勤めに染まっていない学生や新入社員の価値観は、それより上の層とはまた異なっていたりする。
そこで、今の製造業の新入社員は働き方や将来をどう考えているのか?人材育成サービスのラーニングエージェンシー(旧トーマツイノベーション)と、調査研究サービスのラーニングイノベーション総合研究所が行ったアンケート調査「新入社員意識調査(製造業編)」から探る。
「ひとつの会社で長く働きたい」
同調査は、同社が提供する新入社員向け研修の受講者を対象に、2022年3月31日~2022年5月13日にかけて自記・WEBでのアンケートで行ったもの。全4659人から回答を得て、うち製造業従事者からは611人(男性409人・女性191人・不明11人)の回答があった。所属企業の規模感は、301人以上の大企業が42.2%、300人以下の中小企業が51.8%(101〜300人34.0%、51〜100人13.1%、1〜50人(29人)、不明が5.9%となっている。
はじめの質問は「今の会社で働き続けたいか」を尋ねたところ、73.8%が「できれば今の会社で働き続けたい」と回答。製造業を除いた全業種よりも16.3ポイントも高い結果が出た。一方で「そのうち転職したい」は、他の業種に比べて9.5ポイントも低い7.3%にとどまった。製造業の新入社員は、ひとつの会社で長く働くことを求める傾向が見られた。
安定を求める・貢献したい意識が強め
続いて、「どんな状況であれば今の会社で働き続けたいか」との質問では、1位が「職場の人間関係が良い」(70.8%)、2位が「高い給与・賞与をもらえる」(55.4%)、3位が「仕事を通じて成長できる」(33.6%)、4位「業績が安定している」(33.4%)となった。他業種に比べて人間関係や業績の良さを重視する傾向があり、一方で仕事を通じての成長については他業種よりも8.0ポイントも低くなった。
また「仕事を通して何を成し遂げたいか」という質問では、1位が「安定した生活を送りたい」(66.0%)が最も多く、2位は「自分を成長させたい」(55.8%)、3位が「家族に恩返しをしたい」(52.9%)、4位が「社会に貢献したい」(36.7%)となった。
安定した生活、家族への恩返し、社会貢献と回答した割合が他業種に比べて高く、一方で自分を成長させたいは5.9ポイント低かった。
成長への関心度が低めに
スキルアップについて「すでに取り組んでいることはあるか」の質問では、「特に何もしていない」が34.3%で最も高く、他業種よりも7.7ポイントも高めとなった。逆に、スキルアップ手段として他の業種ではトップだった「インターネット等で提供されるサービスを使って勉強している」(16.9%)は製造業では4位にとどまり、10.3ポイント低かった。また「ビジネス本を読んでいる」(16.3%)、「専門学校/通信教育で資格等の取得に向けた勉強をしている」(5.4%)も他業種よりも低くなった。
今後について「どのような仕事をしていきたいか」の質問では、「楽しくてやりがいのある仕事」(74.8%)が7割を超えてトップ。「自身の成長につながる仕事(50.1%)」「楽しく取り組める仕事(44.5%)」と続いた。
他業種との比較では、楽しさとやりがい、安定的に給与が得られる、緻密さ・制作さが求められる仕事は高め。その反面、自身の成長につながる仕事は、他業種よりも5.9ポイントも低かった。
真面目で貢献意欲の高い若手を上司や先輩が導け
調査から見えてきた傾向として、製造業の新入社員は、ひとつの会社で長く働くことを望み、業績の安定や安定した生活といった安定志向を持つ人が多め。また、社会貢献や家族へ恩返しなど貢献意欲の高さも目立つ。
同社では「日本のモノづくり産業の基盤を築きあげてきた製造業に対し「安定」をイメージしていること、また、自分の関わった製品が社会の様々なシーンで重要な支えになっているなど、社会貢献を身近に感じやすいことが関わっているのではないでしょうか」と分析している。
さらに、人手不足と技術承継の難しさ、設備老朽化、製品の複雑化といった環境変化に対して社員の成長は欠かせないところだが、「安定志向で貢献意欲が高い製造業の新入社員ですが、今回の結果では成長への関心度は低い傾向が見られます。彼らの真面目な姿勢に応えつつ、上司や先輩がしっかり寄り添いながら、成長への意欲をより高められるよう導いていけるとよいでしょう」とまとめている。