大きな記事が掲載された喜びも束の間、社内外からクレームの嵐
はじめに
日本の企業は、欧米に比べ、営業部門や製造部門ほど、広報部門を重要視しない時代が長く続いていました。ある時期までは、広報室は企業のゴミ捨て場と言われていたそうです。特に、日本経済を支えてきた製造業においては、かつては「良いものを作れば売れる」という概念が強く根付いており、その良さをもっと多くの人々に伝えたいということに対して、興味が薄く、その風潮は令和時代となった現在であっても、根強く残っていました。しかし、DX時代に突入した現在、ビジネスは共創により成り立つようになり、広報視点で社内のみならず、社外(社会)への情報発信が必要不可欠となりました。本コラムを通して、製造業における広報の在り方、有効な活用手段を伝えていきたい、そんな記事の掲載を目指しています。
今回は、「取材後の記事が誤っていた」、そんな際の対応エピーソードについてご紹介します。
広報室の重要な業務「クリッピング」
広報室の仕事は、朝刊チェックから始まります。多くの広報室は、社員よりも早めに通勤し、朝は新聞をチェックする、オンラインの記事をチェックし、自社の記事はもちろん、競合企業、系列の企業のみならず、自動車業界全般の記事のクリッピング(記事を切り、台紙に張る作業)を日課としている会社が多いのではないでしょうか。
コロナ禍となり、出勤がかなわず、広報室の体制を外注化(PR会社に委託)した企業も多いでしょう。ただ、多くの広報室では、広報室長経由で、役員にクリッピングを提出したり、閲覧できる状態にするものです。
また、自動車業界だけを見ても、日本の基幹産業なだけあり、1つの業界紙や経済産業紙から、相当量の記事を切ることになります。当然、半導体業界、ゴムタイヤ業界等も合わせて記事を切り取ると、新聞は跡形もなくなってしまうことも常でした。
ある日、クライアント企業に代わり、新聞チェックをしていると、先日実施した取材の記事が掲載されていました。予想以上に大きく、“2度見”してしまうくらい、大きな記事で、クライアント企業もさぞかし喜んでいるだろうと思って、クリッピングを提出しました。
問題の真相は・・・社長のビッグマウス!?
しかし、喜んでいる人など誰もおらず、広報室にはクレーム電話が続いており、担当者と話せたのは、だいぶ経ってからです。
その後分かった問題の真相はと言うと、社長インタビューの記事内で、①誤りがあったこと、②それは、目標額が実現不可能な大きな数値であったこと、③そして、系列外の一般市場のビジネスを拡大させるという誤解を与える表現があったことの3つに集約されました。
この記事の後、広報室は、系列会社からの怒りの電話が鳴りやまなかったそうです。しかし、実際には、この取材を受けた社長は、「〇〇〇自動車以外の自動車メーカーにも販売を拡大したい」というのは、何度も言っていました。そうしないと、市場が広がらないのは誰もが分かっていること。そして、この目標は、この企業の大きな目標であり、事業戦略にも組み込まれていました。
PR会社である私たちは、この企業の広報室長の指示で、訂正記事を依頼しました。しかし、数値の修正はすぐに対応されましたが、「一般市場のビジネス拡大というタイトル」の変更は叶いませんでした。
この記事により、企業の株価は一時的に上昇し、コーポレートサイトへのアクセス数は、一気に伸び、大きなヒット記事になりました。しかし、社内で“ハッピーな人”はいなかったようです。社長本人も、親会社に呼ばれ、事業部長も含め、事後処理に追われることになりました。そして、このメディアは当面、当社へは出入り禁止の常態になってしまいました。
代表者が自らの権限で、自社の目標値を記者に説明しただけのことが、結局は大惨事になってしまう、そんなケースは珍しくはありません。特に、オーナー社長ではなく、“雇われ社長”や“出向者の役員”に多く見られます。その後の対応にも限りがあり、一度公表された情報を取り消すというには、非常に難しい事です。
今日の教訓 言うべきこと、言いたいことの発表可否は確認に確認を!