目的地までの道と手段はひとつではない。先日からシーメンス、日立製作所という大手企業の産業・インダストリー部門のデジタル化戦略の発表があり、両社の強みや個性、こだわりが感じられてとても興味深かった。
シーメンスは、さすがは産業オートメーション・デジタル化の分野の世界最大手。フィールドの機器からソフトまで必要な要素はひと通り自社で揃えていて、かつ世界中にたくさんの顧客を抱え、それをフォローする販売網・サービス網が整備されている。この基盤を背景に、今いる顧客をさらにワンランクかそれ以上に引き上げる最先端のデジタルの仕組みであるSiemens Xcelaratorを開発し、それを提案していくアプローチで進めていく様子。どちらかというとメーカー色が強めの印象だ。
一方の日立製作所は、SIer・エンジニアリング会社的な立ち位置をとり、顧客の課題・要望から解決策を提案するアプローチを強化している。国内では生産ラインや工場を立ち上げる日立オートメーションがOTを担当し、IT領域は日立製作所がサポート。北米市場でも同様の枠組みで、2019年に買収した大手SIerでラインビルダーのJRオートメーションがOTを担当し、今回買収した製造業ITのSIerであるFLEXWARE innovationがIT領域をサポートし、北米の顧客のデジタル化を進めていくという。
両社の戦略を喩えてみると、シーメンスが空中戦を展開し、日立は地上戦を進めていくといったところか。いずれも顧客のデジタル化を成功させ、自社のビジネスも拡大するというゴールは同じだが、その戦略はまったく異なる。比較されることも多い両社も、ここまで違うと、同じ土俵、まな板に載せるのが正しいのかとも思ってしまう。
日本の製造業の強みは「現場力」と言われるが、日立が進めようとしているのもこの現場力、現場のエンジニア力を活かした形のデジタル化の推進。現場・現状・現物を見て、そこから最適なものを作り上げていくアプローチだ。一見すると泥臭く見えるが、先進技術と現場の両方を理解していなければできないもので、これからも世界の製造業で求められる貴重で重要な役割だ。
日立に限らず、日本にはこの領域に強みを持つ企業が多い。日立のこの取り組みは良い参考モデルであり、今後にも注目だ。