【産業用ロボットを巡る 光と影(42)】特許申請できたロボットの加工とは?なぜ金型加工のロボット化を成功できたのか?

特許の申請をした顧客

先日、筆者は「RobotWorksを昨年導入した顧客」の工場に伺った。この企業は社員30名ほどの典型的な中小企業で、主に研磨加工を行っている。ロボットは3年前に導入したが、あまりロボットをいかせないので、当社にコンサルとソフトを依頼したという経緯がある。

筆者が工場に到着すると、その工場は本社から10Km以上離れているのにもかかわらず、社長が本社から筆者に会いに来てくれ、とても上機嫌であった。そして、私の顔を見るなりこの社長はニコニコしながら「富士ロボットさんのおかげて、今までは出来なかった加工に、格段に近づけた!」「特許の申請もできるレベルになった。これは富士ロボットさんのおかげだ!」と興奮気味に言い、「これが、最近できたの製品です」と製品を見せてくれた。(顧客情報なので詳しく言えないのが残念だが、)全国の工場を見て回っている筆者も驚くほど「技術力の高さ」が一目でわかるものであったので、筆者は思わず「一緒にやって1年も経っていないのにここまでできるとは!」と叫んでしまった。

社長との会話が終わった後は、技術の方とロボットやパソコンを使いながら、技術的な打ち合わせも行った。なぜなら、筆者が工場を伺ったのは、ただ現状を見る為ではなく、更なる「効率UP」「加工技術UP」が目的だからだ。結果、1時間半で帰る予定のところ、4時間くらい滞在してしまうほど、有意義な打ち合わせが行われた。当社では、このような「お伺い」を無償で時々おこない、コンサルやRobotWorksに新機能を追加している。一般的な製造業の営業であれば筆者の行動に対し「なぜ富士ロボットは1円にもならないことをしている?普通は考えられないことだ」と言うと思うが、筆者はそうは思わない。顧客を発展させてこそ、当社の発展になるのだ。

このように当社は「ソフトに顧客に寄り添った機能」を追加しているだけでなく、「ロボットのコンサルを交えたサポート」が競合と比べ物にならないほど圧倒している。このことが、顧客に喜んでもらい、特許申請の大きな糧になったのだ。

金型加工のロボット化を成功

さて当社が顧客に寄り添って、成功をさせた例をもう一つ述べたい。この顧客も前述の顧客と同規模の会社で、RobotWorksを昨年導入(とコンサルも)した。ロボットは2台もっており、2台とも金型の加工だ。

なぜ、「成功」と言えるかというと、ロボットでの金型加工で「納期」「加工の質」が格段に上がったそうだ。そうなると仕事が増えて、RobotWorks1台では追い付かず、最近2台目を導入された。当然、ソフトを使う技術者が2名必要で、通常はロボット技術者を育てるのに多くの工数を要するが、「ロボットの素人がソフトを使いこなしている」という有難い報告をもらっている。

この記事の読者の殆どは、「ハンドリング(搬送、組み付け、など)や溶接」でのロボット化は見たことがあると思うが、金型加工をロボット化はほとんど見たことがないだろう。よって「金型加工のロボット化が、そんなに簡単にいくのか?」と驚かれたと思う。それもそのはずで「ティーチング」と「加工の質」両方が難しいからだ。ところが、当社の顧客で金型加工を行っている企業は全て成功している。ちなみにその加工は、肉盛り(補修ではなく硬化)、焼入れ、パンチングなどである。

成功の理由は、金型加工に適した機能をRobotWorksが持っているからだ。例えば、「レーザー焼き入れ」だと、CAD上のエッジに沿ったティーチングが簡単に出来るのは当然のことで、そのティーチングポイントを一括でジワジワと位置と姿勢とずらしながら補正をかける機能が現場では重宝される。また「肉盛り」や「パンチング」では、CAD上のフェース(面)上に面全体を塗装するようにティーチングをする必要がある。更に、顧客が望む場所だけをティーチングできる機能がある。しかも金型には穴があることが多いので、その穴を自動で避ける機能も最近追加された。これだけ、至れり尽くせりなので、ロボットの素人でも「成功」に導けたのだ。

顧客に寄り添うソフトの大変さ

もちろん、RobotWorksには現場にとって最も重要な「キャリブレーション機能」や「CADと製品とのズレを治す機能」もある。実は、十年ほど前まではこのような機能すらなかった。顧客の工場に通い、必要な機能を追加することを繰り返して現在の当社がある。

誤解をして欲しくないのは、ソフトに新機能を簡単に追加できるかというとそうではない。ソフトを軽んじる日本人には理解しがたいかも知れないが、「ソフトの開発」をしたり「新機能を追加」するというのは、多くの優秀な技術者と時間を要する。簡単に説明すると、バグができる限り起きないように設計する技術力、そして最終のテストで起きるバグの原因を何万行というプログラムの中から探す工数、もちろんロボットの知識力も必要である。これら全て想像を絶する大変さである。

余談になるが、たまに当社に問い合わせをする方で「ティーチングレス」という言葉を使って、「完全に現場でのティーチングをなくしたい」と言われるが、完全にゼロにすることは不可能であり、現場を知らない素人の考え方である。なぜならCADと現場はまったく同一ではないし、ロボットも思った通りに動かないからである。大事なことは、現場で起きる問題を簡単に解決するノウハウを持つことである。当社でよければ、遠慮なく相談してほしい。

◆山下夏樹(やましたなつき)

富士ロボット株式会社(http://www.fuji-robot.com/)代表取締役。

福井県のロボット導入促進や生産効率化を図る「ふくいロボットテクニカルセンター」顧問。1973年生まれ。サーボモータ6つを使って1からロボットを作成した経歴を持つ。多くの企業にて、自社のソフトで産業用ロボットのティーチング工数を1/10にするなどの生産効率UPや、コンサルタントでも現場の問題を解決してきた実績を持つ、産業用ロボットの導入のプロ。コンサルタントは「無償相談から」の窓口を設けている。

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