データ活用社会ではデータ量の保有量の大きさが勝負の分かれ目となる。しかし1社で集めて所有できるデータの種類や量には限りがあり、複数社がお互いに自社が保有するデータを持ち寄り、共同利用して課題解決や製品・サービスの向上につなげようという企業間のデータ連携の動きが世界で進んでいる。その最たるものがEUで整備されているデータ連携基盤「GAIA-X」(ガイアエックス)であり、ドイツの自動車産業ではCATENA-X(カテナエックス)として利用が始まっている。
企業間データ連携でものづくりを高度化
GAIA-Xは、企業にとって資産であるデータに対して、セキュリティと主権を保護しながらデータ流通を支援するためのインフラとして、2019年10月にドイツとフランスによって発表された。
インダストリー4.0、コネクテッド・インダストリーズ、IIoTが自社の工場や製造現場を主な対象とするものとすると、GAIA-Xはもっと上位の、企業の枠組みを超えたデータ連携の仕組みとなる。
生産設備やライン、工場の生産性を上げるのであれば、社内のデータを集めて分析して改善していけば良いが、より顧客や市場に刺さる製品や地球環境に優しい製品、脱炭素に貢献できるサービスを開発しようと思ったら、部材の仕入れから製造、販売、利用、保守廃棄までの製品のライフサイクルやサプライチェーンなど、製品に関わるあらゆる工程・プロセスから多種多様なデータを集め、それを分析してこれまでとは違ったアプローチを見つけ出す必要がある。しかしながらメーカーが1社で集められる情報には限りがあり、そこに対して部材のサプライヤーや顧客、パートナー企業など関連企業がデータを共有して連携できるようにし、ものづくりを含め、社会や産業をレベルアップさせていこうというのがGAIA-Xの目指すところだ。
脱炭素の課題解決にも
さらに脱炭素やSDGsといった地球規模の課題に対しても、自社のみでCO2排出量を減らす部分最適も大切だが、ライフサイクルやサプライチェーンを俯瞰した形で全体最適と合わせて両輪で取り組むことで効果を高めることができる。製造業と各企業に持続可能な社会への貢献が必須となるなかで、この点でも注目を集めている仕組みとなる。
自動車業界、航空産業で採用はじまる
GAIA-Xはセキュリティと主権の保護が重要とされ、それを実現する仕組みとして「IDSコネクター」の利用がある。IDSコネクターは、GAIA-Xの枠組みのなかでデータの送受信に使うクラウドやエッジコンピュータ、フィールドデバイスに実装するもので、法令や契約にもとづいて各データへのアクセスを制御できる機能を持つ。これによりデータ所有者のデータ主権を保護しながら共有できることになる。逆に言えば、IDSコネクターを組み込んでいない、GAIA-Xの仕組みに乗っていないハードウェアやソフトウェア、システム、サービスではデータ保護が難しく、ビジネスを展開するには不利な状況になるとも言える。
GAIA-Xは単なる構想や研究ではなく。産業界では準拠した仕組みがいくつか誕生している。航空産業のSkywise、オランダのSmart Connected Supplier Networkや、ドイツの自動車業界のCatena-Xがそれにあたる。Skywiseは、航空会社、航空機メーカー、部品メーカーはじめ航空関連企業が参加して稼働開始しており、Skywiseによるエコシステムが出来上がっている。またCATENA-Xは、BMWやメルセデスなど自動車メーカーをはじめ、ボッシュ、シェフラー、ZF、シーメンスやSAP、BASFなど主要プレイヤーがアライアンスを組んで活動している。
日本ではNTTグループが対応を強化
日本ではNTTグループを中心にGAIA-Xへの対応が進んでいる。NTTコミュニケーションズはIDSコネクターと相互接続できるプラットフォームを同社のデータ基盤「withTrust」をベースにプロトタイプを開発し、トライアルを開始。またNTTとNTTコミュニケーションズ、NTTデータは2022年4月からCATENA-Xと相互接続できる日本独自のプラットフォーム開発に着手している。
しかし日本ではこうした企業間のデータ連携を促進する動きは一部に止まっている。GAFAMを中心にデータ活用社会をリードする米国、GAIA-Xで産業向けを中心に仕組みを整備するEU、独自路線を走る中国に対し、日本が国としてどう対応していくかは大きな課題となっている。
https://www.ntt.com/about-us/press-releases/news/article/2021/1014.html