利益を上げるためにコストを下げる必要が出た時、その具体的な方法として多くの工場で、作業能率の向上に力を入れる改善が行われています。ちょっと極端な言い方をしてしまいますが、この作業能率向上によるコストダウンには間違った方向に行ってしまう危険性が潜んでいます。
作業能率を上げることだけに着目してしまい、能率は上がったものの、在庫が増える結果になった改善活動を多く見かけてきました。例えば、プレス工程でこまめに段取り替えを実行して小ロット生産をしていたものが、段取り替えの回数を減らせば能率が上がると考えて、一回の生産ロットサイズを大きくした事例を見たことがあります。計算上、能率は上がりましたが在庫が大幅に増えました。あるいはスピードアップによる作業能率向上に突っ走ってしまう現場も見ています。生産性向上を生産スピードの向上と単純解釈してしまい、スピードが上がればコストが下がると思い込んでいる人も多いのです。しかしいくら速くても在庫が増えれば運搬や管理のコストが増え、キャッシュが減ります。
早く作業が終わっても、あとの作業がなければ手持ち無沙汰になるだけでコストは下がりません。
生産性向上とは作業面だけを見ての判断ではなく、運搬や管理まで、そしてキャッシュのことまで考えたトータルの効率向上でないと意味がなくなってしまいます。ゆっくりでいいので、売れるモノを最小の工程で売れただけ造れる「止まらない流れ」を追求するのです。
コストダウンとは、両立できないと思われがちな「生産性向上と在庫削減を同時に行う」ところに真の解があるのです。
■著者プロフィール
【略歴】柿内幸夫 1951年東京生まれ。(株)柿内幸夫技術士事務所 所長としてモノづくりの改善を通じて、世界中で実践している。日本経団連の研修講師も務める。経済産業省先進技術マイスター(平成29年度)、柿内幸夫技術士事務所所長 改善コンサルタント、工学博士 技術士(経営工学)、多摩大学ビジネススクール客員教授、慶應義塾大学大学院ビジネススクール(KBS)特別招聘教授(2011~2016)、静岡大学客員教授。著書「カイゼン4.0-スタンフォード発 企業にイノベーションを起こす」、「儲かるメーカー 改善の急所〈101項〉」、「ちょこっと改善が企業を変える:大きな変革を実現する42のヒント」など。
一般社団法人日本カイゼンプロジェクト
改善の実行を通じて日本をさらに良くすることを目指し、2019年6月に設立。企業間ビジネスのマッチングから問題・課題へのソリューションの提供、新たな技術や素材への情報提供、それらの基礎となる企業間のワイワイガヤガヤなど勉強会、セミナー・ワークショップ、工場見学会、公開カイゼン指導会などを行っている。
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https://www.kaizenproject.jp/