はじめに
近年、日本の賃金は他国水準と比較すると伸び悩みが目立ち、企業は「労働生産性向上」への取り組みを加速させる必要に迫られている。
少し前になるが、NECソリューションイノベーター社が2019年に公開したコラムで提示された職種別に労働生産性を比較したデータでは、アメリカと日本の事務従事者数をGDP比で確認すると、アメリカ(11.8%)・日本(23.3%)であり、日本の事務従事者数がアメリカの倍近くを占めていることがわかる。(※1)日本の事務業務における生産性は低迷しており、バックオフィス領域における労働生産性を高めることは、企業経営において急務である。
※1 https://www.nec-solutioninnovators.co.jp/ss/achr/column/hr-03/index02.html
業務改善コンサルティングを行う中で、バックオフィス領域において生産性を高めるポイントは下記の3点である。
これらを実現する上で、全ての起点となるのが技術導入及びDX(デジタルトランスフォーメーション)である。企業にとって、バックオフィス領域における技術導入・DXは最重点事項であり、今こそ技術解決思考によるバックオフィスの生産性向上・社内改革を実現させることが求められる。
今回はバックオフィス領域における技術導入及びDXの進め方について、下記3点に分けてご説明する。
※【「テクノドリブン」~技術からはじめよ~①】 技術解決思考でビジネスモデルを革新せよ!!(タナベコンサルティング)
① 導入効果と実現性を踏まえて、段階的な変革を起こす
バックオフィス領域では、これまでシステムや技術(AI・IoTなど)導入の経験がない担当者が多く、自身が抱えている業務がどのようなツールで効率化されるのかイメージすることが難しい。従って、技術導入・DXによりどのようなことができるのか、どのような効果があるのかを実感してもらうため、まずは「今困っている業務・時間がかかっている業務」をヒアリングし、解決できるシステムツールなどを部分導入することで、現場担当者へのマインドチェンジを促す。
これまでDXでは、「スクラップアンドビルド」で進める企業が多かったが、「ビルドアンドスクラップ」で段階的かつ部分的にデジタル化を果たすことで、バックオフィス現場における業務改善への機運醸成を図ることができる。
② 定着化に向けた数値目標(KPI)を設計する
技術導入・DXはツール導入で達成ではなく、一朝一夕では実現しない。
業務担当者の運用・定着までがゴールであり、それに向けたKPIを設計することが重要である。具体的には、導入→定着化→成果創出という各フェーズにおいてそれぞれ適したKPIを設定し、評価基準に対する達成度合いをモニタリングすることを推奨する。KPI指標はツールへの理解度や運用ルールの浸透度などであり、KGIである技術導入・DXにおける効果創出を目指す。
③ 継続的に運用ルール&体制を改善する
デジタルツール導入などにより新たな業務ルール・仕組みを構築すると、「想定通りにデジタルツールが活用されない」「設計した業務フロー通りでは不具合が出る」といった様々な問題が発生する。このような運用上の課題が発生した場合には、計画段階で設計した業務フローや運用ルールを無理に組織内に浸透させるのではなく、課題の真因分析を行い、運用ルール・体制を見直す必要がある。
また、デジタルツールを定着させる上で、定着に責任を持つ部署・担当者を明確にすることも重要である。導入時にプロジェクトチームを組成していたとしても、運用するのは現場メンバーであり、実務担当者である。従って、導入フェーズまでを担当するプロジェクトメンバーが定着の責任を担うのではなく、現場メンバー内で定着への継続的な改善活動を行うことが重要である。
技術導入・DXを実現する上で最も重要であるのは、長期的に取り組むことであり、そのためにはメンバーの「技術解決思考へのマインドチェンジ」が必要である。デジタルツールや様々な技術により、担当している業務がいかに効率化するのか、改善されるのかをイメージできることが第一歩である。
タナベコンサルティングでは、尖端技術研究会という「新たな技術を研究する会」を開催している。そこでは、特定の技術に固執せず、企業のビジネスモデルを変えうる技術やDXのきっかけとなるテクノロジーの基本情報から活用事例までを学んでいる。尚、先端技術でなく「尖端」技術としているのは、ただ単に技術を取り入れるのではなく、尖ったビジネスモデルに活かしていただきたいという思いを込めている。2022年12月に、無料参加が可能な「尖端シンポジウム」の開催を予定している。下記よりご確認いただききたい。
【尖端技術研究会について】
タナベコンサルティング尖端技術研究会主催「尖端シンポジウム」
https://tanabekeiei.hmup.jp/advancedtech_symposium_221212
AIに代表される「破壊的技術」の革新は日進月歩で進んでいる。そうした技術を学び、自社に取り入れながら成長モデルをデザインする戦略・方法について学んでいく。
◆著者プロフィール
株式会社タナベコンサルティング
中四国支社 ドメイン&ファンクションコンサルティング部 部長 兼 尖端技術研究会サブリーダー
岡村 隆宏(おかむら たかひろ)
尖端技術研究会サブリーダーとして、バックオフィス領域に活用できる様々な先端技術を研究し、クライアントへのコンサルティング支援を行っている。また自身の会計事務所勤務の経験を活かし、決算業務の早期化・業績見える化など、経理領域でのテーマに対し、DXによる課題解決につなげている。