コロナ禍やロシア・ウクライナの戦争が継続する中で、FA関連企業の業績は好調を維持し、四半期ベースで過去最高を記録する企業が続出している。素材や部品の不足と価格高騰、為替変動、物流の混乱と費用上昇など、その陰にはそれぞれの企業が工夫と苦労を重ねながら取り組む努力があると思う。景気はいつも順風満帆ではなく、波あり谷ありが常であるが、その動きの中にうまく順応していく企業が生き残るための第1の条件であろう。
2022年6月に逝去された鳥居武久元鳥居電業社長はよく、「アンテナは高く、腰は低く」「のれんを守り、新時代を生きる」と話されていた。筆者もお会いする度に、「今後、どんな技術が出てきそうか? どんな商品が求められそうか? どんな市場を開拓していけばよいか?」などの話になった。それは経営者として、いつも危機感を持っていたからであろう。
1925年創業の鳥居電業の祖業はバッテリーの製造で、その後真空管を使ったオリジナルブランド「ラッキーラジオ」の製造・販売も行っていた。
さらに、50年頃からはオートメーション機器に着目。61年にはオートメーション機器の専門販売店として新たな歩みを始め、現在の位置を築いている。
オートメーションは、「Automatic Operation」を略した造語と伝えられており、このうち、生産現場の自動制御化は一般に「FA(Factory Automation)」と言われている。しかし、FAと呼ばれるようになるのはこれよりさらに後で、当時はオートメパーツなどと呼ばれることが多かった。まだ、半導体などを使用しないで、部品と部品を組み合わせた機械的な構造の製品が多く、機械的な寿命も懸念されたが、人手の機能を代替えできる部分が多いことから、大変注目された。その後は半導体の活用が進み、電子化された製品が数多く登場して、現在のFA市場に成長している。もちろん、現在のFA市場を構築するようになるまでには、先人たちの涙ぐましい努力から生み出された製品・技術が大きな役割を果たしてきたのは言うまでもない。
いまのFA企業を取り巻く環境は納期に追われ、注文をこなすことで必死になっている。それは歓迎すべきことではあるが、では今後の展開に確信できる材料を持ち合わせている企業はどのぐらいあるだろうか。順風満帆に見えるFA市場であるが死角はないのだろうか。それぞれの立場で意見は分かれるだろうが、筆者は「アンテナの低さ」に一抹の不安を覚える。インターネットの普及で情報量が増加し、入手の容易さも大きく増した。スマホやパソコンを「ググる」だけで簡単な問題は解決できる。オンラインの利用で、現場に行かなくても商談やショッピングが可能だ。しかし、これは果たして「アンテナが高い」と言えるのだろうか。本当のアンテナは、高いところから低いところ、隠れているところなど多方向から情報をキャッチできる感度の良さである。「事件は現場で起きているんだ」というセリフがあったが、このような状況までキャッチできるようなアンテナがどのくらい設置されているだろうか。リモート営業では、取引先の雰囲気はもちろん、生産現場に入って、手で触りながらの話は当然できない。また、工場の生産現場でも現場作業者の声が生産技術者に届いていないケースも多いと聞く。毎日机に座って報告を聞いているだけで判断すると、往々にして間違った方向に向かわないかと心配になってくる。
AI(人工知能)やメタバース(3次元仮想空間)などのコンピュータやインターネットを活用し、今までの常識を超えた新しいハイテクツールが次々と登場している。これらの技術がアンテナの低さを補ってくれるようになるかもしれない。しかし、文字や言葉にならない小さくて隠れた情報が、産業や企業の動向を左右するような大きなきっかけなることもある。気持ちの「気」は景気の「気」でもある。「気」の動きで状況が一変しかねない。常在戦場を忘れず、いつも危機感を有した高感度のアンテナを掲げた行動がますます必要な時代になっている。
著者:ものづくり・Jp株式会社 オートメーション新聞会長 藤井裕雄