工場内には日々、たくさんの情報が流れています。生産計画や仕事の割り振り、段取り替え予定、配送計画、入荷計画など実に様々な情報です。しかしこれらのいろいろな情報も元をたどると、「注文情報」ただ一つです。
注文情報以外のすべての情報は、注文から派生した情報であることが分かります。作業の都合上から情報を細分化していますが、たくさんの人で作業を手分けしてしまうとあらゆることが複雑になり遅くなります。逆に注文情報を中心に可能な限りシンプルに情報が流れるようにするとスピードが上がりミスも減るのではないでしょうか。
精密鍛造で自動車部品を作っているE社では、生産管理の人たちが翌日の生産計画を作るために前日の夜遅くまで仕事をしていました。しかし現場でその計画がどのように使われているかを見てみると、前日生産管理の人たちが作った計画通りにはやっていません。理由を聞くと予定通り材料が入ってこなかったり、突発の注文が入ったり、担当者がお休みしたりといったことに対応する必要があるから…ということでした。あるいは段取り替えを減らすために順番を変えるということもしていました。すなわち計画の中で確実に使われているのは生産数と納期だけで後の情報は必ずしも使われていなかったのです。そして管理の人たちでは到底分かりえない現場の経験からくるノウハウが生かされた作り方をしていたということです。
そこで生産管理の人たちは、求められる製品情報として数量と締め切り時間のみを示し、作るのに必要な材料を用意するということにして後は生産現場の判断に任せるやり方に変えました。極端に言うと、営業からの注文情報をそのまま現場に渡してみたという感じです。その結果ですが、全く問題は起きませんでした。むしろ現場判断の自由度を高めたことで生産効率は上がったと聞きました。しかし何よりよかったのは生産計画を作っていたスタッフの人たちは毎晩遅くまで残業をして仕事をこなしていたのですが、定時で終えられるようになったのです。
営業からの注文情報を。生産現場にも購買にも配送にも、直接に伝わるようにすると実にシンプルになりますね。生産計画の立案をやめて、注文情報をそのまま現場に流しても商品が作れるということはあるのです。
■著者プロフィール
【略歴】柿内幸夫 1951年東京生まれ。(株)柿内幸夫技術士事務所 所長としてモノづくりの改善を通じて、世界中で実践している。日本経団連の研修講師も務める。経済産業省先進技術マイスター(平成29年度)、柿内幸夫技術士事務所所長 改善コンサルタント、工学博士 技術士(経営工学)、多摩大学ビジネススクール客員教授、慶應義塾大学大学院ビジネススクール(KBS)特別招聘教授(2011~2016)、静岡大学客員教授。著書「カイゼン4.0-スタンフォード発 企業にイノベーションを起こす」、「儲かるメーカー 改善の急所〈101項〉」、「ちょこっと改善が企業を変える:大きな変革を実現する42のヒント」など。
一般社団法人日本カイゼンプロジェクト
改善の実行を通じて日本をさらに良くすることを目指し、2019年6月に設立。企業間ビジネスのマッチングから問題・課題へのソリューションの提供、新たな技術や素材への情報提供、それらの基礎となる企業間のワイワイガヤガヤなど勉強会、セミナー・ワークショップ、工場見学会、公開カイゼン指導会などを行っている。
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https://www.kaizenproject.jp