設計図面データを土台に、製造工程や部品表作成、完成図書を作成する
制御盤の設計・製造工程をデジタル技術を使って効率化し、制御盤関連各社の体質強化を実現する「制御盤DX」。しかしそこに至るまではいくつもの壁・ハードルが存在する。日本電機工業会(JEMA)制御盤2030ワーキンググループは、制御盤の制作工程の将来の形として「制御盤2030」を提示し、さらに制御盤DXを阻む壁とそれに対する推進策を「制御盤製造業界向けDXガイドライン」としてまとめている。本記事では、同ガイドラインをもとに、制御盤DX実現に立ちはだかる壁とその解決策を紹介する。
制御盤の設計開発には、 以下のような3つのDXの壁が存在する。
1つ目は「設計と製造との連携不足」。制御盤の設計と製造は分業が多く、設計データが製造プロセスに生かされておらず、設計図をもとに改めて配線図、穴あけ加工図、工作機械用データ、作業方法資料などを作成している。制御盤製造の過程で急な設計変更が発生したときには、変更内容の情報共有がされていないことも多く、対応に手戻りが発生してしまうという課題がある。
2つ目は「部品表の妥当性」。多くの制御盤メーカでは、提示された仕様や電気回路図面から設計者が部品を手作業で確認・抽出してExcelシートなどで部品表を作成している。そのため部品選定に大きな工数がかかり、間違いも発生する。また設計レビューで部品表の妥当性を評価するが、調達部門との情報連携が不足しがちで、リードタイムが把握できていないことがある。部品によってはリードタイムが長いものがあり、盤発注者からの注文を見越して先んじて部品の発注が必要となる場合がある。その際には、盤発注者と制御盤メーカとが同じデータで確認でき、齟齬がないようにしておかなければ、ここで大きな手戻りと部品の不良在庫が発生する。部品表と制御盤回路図がきちんと連動、整合している事が重要だが、そこに壁がある。
3つ目は「完成図書の信頼性」。設計と製造の完成図書は、メンテナンス部門が使用できるように設計変更を反映した、実際の納品物と齟齬がない書類が必要だが、設計変更が完成図書納品直前に発生することも多く、設計変更が反映されていない場合がある。
機械系では CAD・CAM 製造連携が当たり前になっているが、電気設計ではまだこれから。3DCAD上に設計データと完成品とを一致したデジタルツインを構築し、電線加工や筐体製造などとデータ連携することができれば納期は早く、コストも抑え、省力化も可能だが、ここにも課題がある。
これらの壁をクリアするには、必要な部品は設計図面から自動的に部品表(BOM)として抽出され、調達に活用できるような仕組みを整える。将来的にはPLM連携によりBOMデータに部品のリードタイムや商社の在庫情報などが連携されるようになれば、リードタイムの情報が早期に分かるようになり、盤発注者の発注前に情報を共有でき、大きな手戻りと部品の不良在庫を避けることができる。また現場作業でもデジタルツインにもとづいて配線順序や接続先を示すことで図面が読めない非熟練工でも配線が可能となる。さらに、設計及び製造の途中で設計変更が行われた場合も、リアルタイムでデジタルツインに 反映することができ、実際の納品物と完成図書との間に齟齬が生じなくなる。