令和の販売員心得 黒川想介 (80)既知の事実の先に何があるか 潜在需要を掘り起こす情報源

販売店営業はこのビジネス戦線の最前線部隊であるから最重要な活動と言えばそれは情報活動である。ところが売込み合戦に懸命であるために、情報の重要性を理解していないのが実際である。販売員が情報と言えばそれは商談がらみの案件や売り込むための商品情報提供のことだと思っている。古来、少数の兵で大軍を破った例は数にある。その中で、アレキサンダー大王や源義経のようにその時までにはなかった新しい戦術を考案し、大軍を破った例はあるが多くは少数である自軍が形勢不利と思ったら徹底して相手の情報を探り、弱点を見つけてそこを突き勝利している。特に有名なのはローマ帝国の掟を作ったカエサルの戦術である。

カエサル著の「ガリア戦記」の中に「来た、見た、勝った」という実に短くて有名な戦場の記録が載っている。ローマから遠く離れたガリアの戦場にやって来て、できる限りの情報を集め、情報を基に、勝つべくして勝つ戦術を実行した。その結果、勝利したということを極く短く記述したことで有名である。営業戦線は実際の戦場とは違ってすばやく決着がつくことはない。しかし勝つためには情報の重要性は同じである。営業戦線の相手は競合メーカや競合販売店ではない。マーケットを構成する顧客であるが正しく言うならば顧客が有する需要との勝負ということになる。需要には顕在需要と潜在需要がある。案件等は顕在需要であるがそれらの需要に関しては商品が持つ品質、コスト、納期が大きな武器になる。それでもある面でQ・C・Dが競合商品より劣っている所があったとしても販売員の機転で勝つ可能性がでてくる。

機転を効かせるにしても顧客の実態を十二分に知って置かなければならない。現実の営業のやり方は形勢が不利な時にでも商品のQ・C・Dに固執し、他に良い商品はないかと探すことのみである。販売員の機転は顧客に関して持っている情報が多いほど発揮できる。だから形成が不利の時ほどカエサルの如く多くの情報を集め、顧客が求めている必要最小限の合理性を見つけて、顧客の感情に訴えればいい。人が決心する時には感情が大きな役割を果たすからである、潜在需要は営業側から見れば顧客は気づいてなくても、販売員がこれこれの理由で必要なのではないかと示唆する需要の事である。

したがって顧客に関して詳しく情報を把握してなければ顧客に潜在する需要を握り起こして示唆することはできない。現在の営業は需要があるかもしれないというあいまいな情報で商品を紹介し、需要を引っ張り出そうとする。実際の戦術ではあいまいな情報による希望的観測行動をすれば大敗を誘発するとして戒めている。販売員の場合は希望的観測に基づき商品を売り込んでも顧客の客にはならず、サービス行為として受けてくれる。

しかし新規客ではこれが通用せず、最初の訪問で空振りとなれば継続訪問のチャンスを逃してしまう。だから顕在、潜在需要を問わず顧客情報に精通する事がいかに大事かがわかる。前回情報入手の心得で行き掛けの駄賃や当て馬作戦を癖にすることを勧めたがもう少し具体的な入手の心得として既に知っている事実があればその先に何があるかを知ろうとする事である。つまり納品する商品や打合せ等で知った事実をそのままにして置かない事だ。例えば納品している機器や部品がどこに使われているかを聞いて、それが洗浄機に使われている事を知ったなら洗浄機の前後にはどんな機械や工程があるのだろうか等のことを知ろうとする事である。この様な癖がつけば情報の入手力は階段に上る。

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