テクノロジーで進化したビジネスモデル
YouTuber、Uber Eats、ドローンビジネス……数十年前にはこれらの事業は存在していなかった。
これらのビジネスモデルは、新たに生まれたテクノロジーと既存ビジネスモデルとの掛け算により生まれ、進化したものである。
例えば、YouTuberのビジネスモデルは、従来は芸能事務所が担っていた。
事務所に所属する特色を持ったタレントが広告塔となり、スポンサーから広告料の収入を得る。そして、そのタレント独自のブランド力を活かして、アパレルや雑貨などのグッズに展開しその販売で収入を得る。
これまでは個人が広く露出を増やすという取り組みに対するハードルが非常に高かったが、YouTubeという動画プラットフォーム(テクノロジー)が発達したことによって、個人でも容易に実践できるようになった。また、料理系や美容系、アウトドア系など多様化した現代の消費者嗜好に合わせてニーズにマッチしたコンテンツを届けることで、これまでリーチできなかった一般消費者へのアプローチも可能になった。
既存事業とテクノロジーのかけ合わせで実現するビジネスモデルイノベーション
イノベーションの父と言われる経済学者ヨーゼフ・シュンペーターは、1912年に著した『経済発展の理論』の中で、「新結合」という言葉を用いてイノベーションの概念を提唱した。シュンペーターによれば、イノベーションとは「これまで組み合わせたことのない要素を組み合わせて新たな価値を創造すること」であるという。まったく新規のものでなくとも、もともとあるモノの組み合わせでイノベーションは生まれるというのである。
また、Apple社の創業者スティーブ・ジョブズも「想像力とはいろいろなものをつなぐ力である」とし、スマートフォンも既存技術の組み合わせで作られたものであると述べている。
目まぐるしく変化する環境に対応するためには、限られたリソースを適正に配分する必要があるため、新規事業のようなリスクが大きく、成果創出に時間がかかるものに手を出すことはなかなか難しい。既存事業の強みを活かしつつ、日進月歩で実用化されつつあるテクノロジーとのかけあわせでビジネスモデルを変革することが、環境変化に対応する一つの解決策になるのである。
テクノロジーでビジネスモデルを変革した企業事例
既存事業とテクノロジーをかけ合わせてビジネスモデルを変革した企業事例として紹介したいのが、碌々産業株式会社の取り組みだ。碌々産業株式会社は1903年に創業し、高精度微細加工機、プリント基板加工機、専用加工機の3製品を主力としてグローバル展開している、創業119年の老舗加工機製造業である。同社は老舗でありながら、「地域未来牽引企業」(経済産業省、2017年)、「100年経営大賞中小企業庁長官賞」(100年経営の会主催、2019年)、「グローバルニッチトップ企業100選」(経済産業省、2020年)など多数の賞を受賞している。その評価につながっている取り組みの一つが、IoT技術を活用した顧客体験価値の向上である。
同社はDXを推進し、大きく2つのステップで顧客体験価値を向上させてきた。
1.データの見える化
センサーを加工機に取り付け、加工時の複数の条件をデータとして取得。
加工機を使用する顧客が加工条件を管理しやすくなる付加価値を提供した。
2.データで顧客とつながる
1のデータの見える化に加えて、独自のデータ収集クラウドを構築したことで、加工機を顧客に販売した後も顧客とつながることに成功。そして、顧客とつながったことにより多数のサービス提供が可能となった。そのサービスに基づき、顧客企業において加工機が常に最高のパフォーマンスを発揮できる状況を実現して、顧客体験価値を大幅に向上させている。
データの見える化により、製品としての機能を進化させた同社であるが、そのデータをメーカーである自社でも活用し、サービスを展開することで新たなビジネスモデルを構築している。
同社はIT企業と協力して独自のクラウドシステムを構築し、世界各地の顧客に販売した加工機の加工データをリアルタイムで収集するプラットフォームを創り上げた。そして、収集しているデータを遠隔監視し「AI Machine Dr.(AIマシンドクター)」と同社が呼ぶ、AIを活用したモニタリングサービスを提供している。
AIマシンドクターでは、加工データをモニタリングし、顧客企業において機械トラブルが生じた場合にすぐに検知する。そして、メーカーとしての高い専門性をもとに機械トラブルを早期解消することで、機械の停止時間を最小化している。また、顧客企業における機械の使用条件を常に把握できるため、そのデータに基づき予防保全や使い方の指導、コンサルティングなどのサービス提供も行うことができる。微細加工機の主治医として、販売した機械が常に最高のパフォーマンスを発揮できるようにサポートしているのである。もう一つ重要な点として、これまでは加工機販売後に顧客企業との接点が途絶えていたが、AIマシンドクターを通じたサービス提供が可能になったことで、良好な関係を継続的に築くことができている。
設備メーカーのビジネスモデルは従来、スポットで売り切り型であり、一度販売すると顧客の設備更新もしくは増設が無い限りは新しい注文が来ず、業績が安定しにくいモデルである。
しかし、同社はデータモニタリングシステム、クラウドシステム、AIといったテクノロジーを既存事業と掛け合わせることで、既存事業の付加価値向上に加え、サポートやコンサルティングといった定常的に収入が入るベース型のビジネスモデルを構築することに成功したのである。
小見出し:テクノドリブン~技術から始めよ~
既存事業とテクノロジーのかけ合わせでビジネスモデルを変革するためには、まずはそもそもテクノロジーを知り、選択肢を増やすことが必要である。テクノロジーを知れば発想が生まれてくる。
タナベコンサルティングでは、AIやVR等に代表される先進的なテクノロジーについて、隔月で様々な技術を研究する「尖端技術研究会」を開催している。日進月歩でテクノロジーが進歩する中で、自社が保有している既存の枠組みで情報収集をしていては有益な情報を取りこぼしてしまう可能性がある。ぜひとも、「尖端技術研究会」に参加してテクノロジーを知り、自社のビジネスモデルの変革に活用していただきたい。
【尖端技術研究会について】
AIに代表される「破壊的技術」の革新は日進月歩で進んでいる。そうした技術を学び、自社に取り入れながら成長モデルをデザインする戦略・方法について学んでいく。
・尖端技術研究会
https://www.tanabekeiei.co.jp/t/lab/advancedtech.html
・尖端技術研究会主催 無料ウェビナー「尖端シンポジウム」(2022年12月12日開催)
https://tanabekeiei.hmup.jp/advancedtech_symposium_221212
◆著者プロフィール
株式会社タナベコンサルティング ストラテジー&ドメイン大阪本部
チーフコンサルタント 兼 尖端技術研究会サブリーダー
神髙 弘樹(かんだか ひろき)
尖端技術研究会サブリーダーとして、バックオフィス領域に活用できる様々な先端技術を研究し、クライアントへのコンサルティング支援を行っている。自動車メーカーにてエンジン部品の鋳造工場勤務や設計開発部門での車体開発効率化を経験後、当社へ入社。中堅製造業を中心として、中期ビジョン・中期経営計画など、複数の企業戦略構築を担当。さらに尖端技術研究会サブリーダーとしてテクノロジーでビジネスモデルを変革することをテーマに様々な先端技術を研究し、クライアントへのコンサルティング支援を行っている。