令和の販売員心得 黒川想介 (81)顧客が喜ぶこととは何なのか 反応の違いを開拓に役立てる

機器部品営業が取引している顧客には多くの部所組織がある。国内の製造業が生産力を強化し生産効率を上げるために機械や装置の自動化をどんどん進めていた時代に制御機器や部品を取り扱う販売店は大きく売上を伸ばした。そうした経緯から販売員は製造現場の技術者や制御機器部品を使用する設計者と接触する機会が多くなった。技術者との接触により技術的なスキルが向上し、それに伴って売上は上った。したがって販売員が培った技術的スキル向上が販売店の売上を伸ばしたことは確かである。それでも販売店の成長は端的に言って顧客数の増加なしでは考えられないのだ。GDPが毎年伸びつづけていた時には製造業は増え、全国に工場が建った。販売員は新しくできた工場へ押しかけて行き、顧客を増やしつづけた。その過程で新規開拓力も上った。90年代に入り起用高いによって製造業は我も我もとこぞって海外へ出て行ったために国内に工場が建つ件数はかなり減り、新規客の開拓は厳しいものとなった。

国が発展する段階で中所得国の罠という言葉がある。発展途上国が国民所得一万ドル前後で成長が鈍化し、なかなか一万ドルの壁を突破できないことを指している。経済に勢いがついてその規模が順調に伸びてきた新興国も一万ドル付近で国の施策のギアチェンジはいかにむずかしいかを示している。機器や制御部品の販売店の場合に一万ドルの壁のようなものがあるとすればそれはやはり客数である。客数とは口座数も然る事ながら製造技術部や設計技術部などの部所をひとつの客数としてカウントした数である。したがって制御盤や治具装置をつくっているベンダーには客数は少ないが中堅や大手の製造業にはたくさんの部所があり、多くの客数があるということになる。昭和時代に販売店は営業の人数を一人、二人ととふやし続けた。平成に入り数年に一人ふえる程度になって、リーマンショック付近から横這い状態になっている。これはむずかしい新規客開拓を置いておいて、得意先で発生する需要を一円でも逃がさない営業活動に頼ってきたからと言える。

つまり取引口座数や部所数がふえてないし、入れ替わりも少なく、顔ぶれに然したる変化が見られないということになる。新興国が中所得の罠から抜け出して更に成長するのに国がむずかしい舵取りをしたように、販売店は新規口座開拓や顧客内の新規部所開拓がむずかしいからといって逃げの手を打つのではなく、むずかしいからこそ真剣に取組むことで次の成長の段階が見えてくるのだ。販売員は売上の上ることをしたい。販売員は顧客が喜ぶことをしたい。この二ツを満たそうとして日々汗を流している。この二ツのアンド条件を満たすために自動制御業界の成長期には商品をよく学び、商品を紹介すれば顧客は喜んでくれた。

しかし最近の若手販売員はこれまで顧客が喜んでくれたやり方では顧客はあまり喜ばなくなったし、新規客の場合は憮然とさえすることが多いと言う。この方法では売上を上げたいと思っても顧客が喜ばないためにそれ程熱心にやらなくなる。顧客が喜ばずして新規客が喜ぶはずがない。

つまり客数はふえないことになる。若手販売員は売上を上げたいと思っているのなら自分の顧客が喜ぶこととは何なのか知るべきなのだ。親しい技術者に聞いてみるのも手であるし、自分で考えた事を実行し顧客の反応をよく見ることでもいい。そうすれば顧客の中の立場の違いや若手かベテラン技術者かによっても反応の違うのがわかる。わかった事を新規客開拓時に役立てばいいのだ。

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