「共創」をテーマに、あらゆる業界・業種でさまざまなコラボレーションが広がっている。個社で乗り越えられない課題を連携することで解決したり、新しい製品やビジネスを生み出したりと新たな事業展開には有効な手段となっている。
FA業界でもコラボで成果を上げているケースはいくつかあり、フエニックス・コンタクトと富士電機機器制御のコラボもそのひとつ。コネクタ・端子台のPush-in技術を皮切りに、現在は制御盤内の電源ラインに関するソリューションでも連携を強化している。同じFA、配電制御領域をビジネス領域とする2社のコラボレーションは何を目的に生まれ、成果はどうだったのか。今後はどうなっていくのか。両社に話を聞いた。
Push-in(プッシュイン)からはじまったコラボレーション
-コラボレーションはいつ頃からはじまったのですか?
フエニックス・コンタクト(以下フエニックス):フエニックス・コンタクトにはDNAとも言える、産業機器向け接続技術Push-inがあり、端子台をはじめ盤用機器に展開し、長年にわたって配線作業の効率化を進めてきました。2018年に富士電機機器制御さんがスプリング端子を搭載した電磁接触器やリレー、ブレーカなど愛称を「F-QuiQ」と称した製品群を発売されたことがきっかけとなり、2019年秋から本格的にPush-inを共通項とした販促マーケティングで交流がスタートしました。
それ以降、顧客向けセミナーや、展示会での相互協力、ウェビナー動画制作、共同フライヤ、試験等を実施。お互いのお客さまから好評で、2021年春にも富士電機機器制御さんのスプリング端子製品の特設サイトに、弊社のPush-in製品を追加するなどコラボを継続してきました。
そして2022年春にコラボの範囲をPush-inから電源関連機器に拡大し、弊社の電源ソリューション「安心24ソリューション」と富士電機機器制御社サーキットプロテクタの共同販促を実施。「安心24」のPRキャラクター「安心24戦隊・クイントマン」の漫画に、富士電機機器制御さんのオリジナルキャラクター「制御盤防衛隊・サーキットイエロー」が登場したのがこの時です。
富士電機機器制御(以下富士電機):F-QuiQの発売開始から間もない頃、弊社の配電制御機器とフエニックス・コンタクトさんの端子台を使い、ねじ接続方式を使わず、Push-in接続機器だけで制御盤を作るという企画にも協力いただきました。今回のキャラクター同士のコラボも、早い段階からPush-inや端子台以外でも何か一緒にやりたいねという話はずっとしていて、それがようやくかなった形になります。
日本市場での認知度向上・Push-in文化の盛り上げで利害一致
-コラボレーションはどんな目的ではじめたのですか?
フエニックス:弊社は来年で日本法人設立35周年を迎えます。ようやく端子台やコネクタ等の接続機器、スイッチングハブなど産業ネットワーク機器では業界内でも一定の知名度をいただくようになってきました。
しかし弊社には10万種類以上の製品種があり、接続機器や産業ネットワーク機器以外にも、リレーやセーフティ機器、電源と保護機器、PLCやHMI、筐体・ボックスやマーキング機器など幅広い製品群をそろえています。グローバルでは広く採用されている製品もありますが、国内での認知度はまだまだ低め。これまでとは異なる提案や販促を考える必要がありました。
例えば今回のコラボの目玉となっている電源関連機器に関しても、日本では接続製品に比べ認知度が高くありませんでした。またスイッチング電源とその対策機器の両方を取り扱っているという強みがあるにも関わらず、これまで弊社はハードウエアメインの提案や単品売り中心でした。
そこで新しいチャレンジとして、制御盤内の電源ラインを脅かす課題(次段落で解説するSOFIS)とその解決策に焦点をあて、新しい提案として2020年に「安心24ソリューション」を開始しました。
DC24Vの安定供給を守る「安心24ソリューション」
-安心24ソリューションとはどんなものですか?
フエニックス:弊社のスイッチング電源と対策機器を駆使して、トータルで電源ラインを保護していきましょうという提案です。
例えば工場ですと、機械や生産を止めないためには、制御盤の電源、いわゆるDC24Vの安定供給を守ることが大前提であり、その電源を脅かすあらゆる事象に対策を講じる必要があります。
電源の不具合の主な原因は、短絡、過負荷、故障、停電・瞬低、サージの5つに分類され、その英語の頭文字をとってSOFISと呼んでいます。弊社はスイッチング電源「クイントレッド」をはじめ、このSOFISから電源を保護する機器を取りそろえており、それらを使って電源を保護し安定供給を実現します、というのが「安心24ソリューション」です。
そして、電源ラインの安定化に活躍する機器を擬人化キャラクターとして誕生したのが「安心24戦隊クイントマン」です。クイントマンはストーリー仕立ての漫画として、現在は弊社の安心24特設サイトで第6話まで公開中です。
漫画を使って技術を分かりやすく楽しく紹介
-漫画にしたのはなぜですか?
フエニックス:「安心24ソリューション」は単一製品ではなくソリューションであり、機器メーカーの弊社としても大きなチャレンジでした。そのためお客さまだけでなく、弊社の営業、また特約店さまにも内容を分かりやすく理解していただく必要があり、その手段として考えたのが、擬人化と、漫画化でした。ちょうど赤血球や白血球など体内の細胞を擬人化して体の働きをやさしく解説する漫画がはやっていて、それを電源保護に応用した形になります。
作画についても、もともとエンジニアで、現場や技術に詳しく、製造業でもファンの多い人気漫画家の見ル野栄司さんにお願いしており、おかげさまで社内外から好評です。
安心24戦隊クイントマン(左)、制御盤防衛隊サーキットイエロー(右)(安心24ソリューションサイト)
同業他社のキャラクター同士が共演
-最新話では新しいキャラクターが登場しました
フエニックス:クイントマンにはスイッチング電源の一時側(AC側)を保護できるメンバーがおらず、最新話では、そこに助っ人として富士電機機器制御さんのサーキットイエローがさっそうと登場し、クイントマンとのコラボで安心24ソリューションの足りない部分を補い危機を救うというストーリーになっています。
富士電機:クイントマンは私もファンで楽しく読ませていただいて、漫画や擬人化はPR手法として有効だと思っていました。そこで、以前、外食産業で同一業界の企業同士がゆるくコラボをして、それぞれに自社キャラクターを作って合同でキャンペーンを張っていたのを思い出し、弊社でもオリジナルキャラクターとして「制御盤防衛隊」を作りました。その第1弾がサーキットプロテクタCP30Fシリーズを擬人化したサーキットイエローとなります。
今回、フエニックス・コンタクトさんのクイントマンに出張し、漫画にも登場させてもらいました。
-同じ領域でビジネスをする同士、競合他社でもありますが、問題はありませんでしたか?
富士電機:今回のコラボに関して、電源ライン上の一部の製品でお互いに重なる部分はありますが、弊社は動力側、特にAC側に強く、フエニックス・コンタクトさんは制御側、特にDC側と注力分野が異なっていて、お互いに補完し合える関係にあったことで組むことができました。
弊社は、今まで以上に業界内での認知度を高めていくために、新規のお客様との接点を増やすべく、常に新しい取り組みを実行していくことが求められています。2018年に発売したPush-in製品のF-QuiQのPRに関しても、これまでフエニックス・コンタクトさんがグローバルで築いてきた「Push-inのパイオニア」としてのノウハウとポジションは圧倒的で、コラボレーションはとても魅力に感じました。
フエニックス:富士電機さんは日本市場での信頼感が非常に高く、歴史ある会社であるにも関わらず、意外にもコラボにも前向きであったことから、企画から実行まではとてもスムーズに進みました。いろいろと斬新なアイデアも出してくださる、心強いパートナーです。
安心24戦隊クイントマン第6話より(安心24ソリューションサイト)
ソリューションの認知度・浸透度が向上 具体的な引き合いも発生
-コラボレーションの成果はいかがですか?
フエニックス:社内外でおおむね好評です。コラボしたことで、富士電機さんのお客さまや販売店さまなどにも知ってもらうことができ、いままで接点のなかったユーザーさまや販売店さまから問い合わせが増えています。
また、今回コラボするにあたり、富士電機さんの吹上工場で両社製品の組み合わせ試験により、有効な技術的裏付けを取っていただきました。WEBやチラシ等で両社の製品が試験実証済み・メーカー推奨組み合わせ製品の掲載は、選定の際の安心材料になると思います。またお客さまが自社で確認する手間が減り、ご発注までの納期の短縮にも役立ちます。
富士電機:弊社でも社内外の反応が良く、引き合いも発生するなど相乗効果が出ていますね。
FA業界の共通課題に対し手を組んで解決する仲間
-成功の要因はどのように考えますか?
フエニックス:弊社も富士電機さんも、お互いに産業機器メーカーとして共通した認識と課題感を持ち、その解決に向けて積極的という点も大きいと思います。
産業現場では、人手不足と熟練作業者のノウハウの継承の難しさが以前から言われ、さまざまな変革が必要とされています。また世界的な気候変動により、これまでにない大雨や大雪、猛暑など過酷な環境への対応が必要となっています。
お客さまを取り巻く環境と意識の変化もあります。制御盤を必要とする機械メーカーやエンドユーザーはこれまでは保守的でしたが、最近は自動車のEV化など市場環境の大きな変化やデジタル化、さらには納期遅延等の影響もあり、提案型、コンサルティング型の営業が求められています。
時代の変化に対して、両社ともにPush-inテクノロジーをはじめ、IoT化や予防保全などのソリューションを、課題を含めてお客さまに展開し続けていることも、新たな施策がお客さまに受け入れていただける一因となっているのではないかと思います。
セミナーやWEBにも連携を拡大Push-inの普及でもコラボを
-今後、このコラボレーションはどう進化していくのでしょうか?
フエニックス:11月末に2社を含む制御盤関連メーカーで「北米向けの生産設備の電源ライン、規格・認証」をテーマにオンライン技術セミナーを開催しました。北米向けの機械・装置にはサージ保護機器の設置が義務化されるなど、ホットな話題を取り上げて大変好評でした。
また、FA市場ではPush-inがかなり浸透してきていますが、インフラ市場ではまだまだ広がっていません。こうした新しい業界に対してPush-inを普及させていくには、敵も味方もなく、業界を挙げて取り組んでいく必要があります。それこそコンソーシアムなものを作って一丸となってやるくらいでも良いと思います。今回のコラボをきっかけに、そうした活動にもチャレンジしたいと考えています。
富士電機:北米の安全規格では制御盤にSCCR(短絡電流定格)の値の表示が義務付けられていることもあり、WEBサイトを通じてSCCR関連情報を多く掲載し、製品選定の効率化や選定の手助けと言ったサポートをしていきたいと考えています。また、電源とサーキットプロテクタのコラボページも充実させたいですね。
お客さまの課題に対して、スプリング端子機器という視点で、いま一番の相談相手になってくれているのがフエニックス・コンタクトさんです。Push-in接続の普及も含め、弊社の色や特長を出しながら、相乗効果が得られるような企画を実施していきたいです。
フエニックス:今回の一連の取り組みによって、Push-inでも電源周辺機器でも、テクノロジーを通じて企業を超えた連携、成果につなげる活動と実績の型がみえてきました。今後他の分野でも、自社だけではできないコラボにより、お客さまの課題を共に解決していきたいですね。
■フエニックス・コンタクト
https://anshin24.phoenix-contact.jp/
■富士電機機器制御
https://www.fujielectric.co.jp/fcs/solution_case/save_mh/save_mh01.html