エレクトロニクス業界の国際標準化団体「IPC」

IPCプレジデント&CEO ジョン・ミッチェル氏

トヨタなど参加 日本委員会が活発化 エレクトロニクス業界の知見・経験・要望を世界へ発信

 太陽光発電や風力発電といった再生可能エネルギーやEV(電気自動車)をはじめ、社会は急速にさらなる電化・エレクトロニクス化が進み、それにともなって電子機器にはこれまで以上の品質・信頼性が求められています。
 IPCは世界70カ国5000社のエレクトロニクス関連メーカーが参画している国際標準団体で、日本でも2021年からIPC日本委員会が活動を開始しています。さらに2022年には、世界的なEV産業の進展に合わせ、日本の自動車・エレクトロニクス業界の意見をまとめ、世界的な議論の俎上(そじょう)に載せることを目的として、東海理化やトヨタ自動車を中心に、IPC国際規格開発委員会タスクグループが結成されるなど、活動が活発化しています。
 IPCの活動と日本の自動車業界の動きについて、IPCプレジデント&CEOのジョン・ミッチェル氏に話を聞きました。

世界中のユーザー・サプライヤーが参加する国際標準化団体

 -IPCとはどんな団体なのですか


 IPCは、電子機器と部品の組み立てと製造・実装プロセスの標準化を行うエレクトロニクス業界の国際標準化団体です。「Build Electronics Better」のビジョンのもと、エレクトロニクス業界をより良くする活動を進め、業界をサポートしてきました。
 Appleやフォード、DELL、ボーイングといった電子部品・電子基板を利用して製品を作るメーカー(ユーザー)をはじめ、電子機器・電子部品メーカーなどサプライヤーなど、エレクトロニクスに関する企業が参加して、リアルなマーケットに即した業界標準・土台づくりを進めています。
 10年前はIPCの参加企業はアメリカ企業が7割を占めていましたが、今ではヨーロッパや中国、日本、韓国、台湾などの企業が多く加わり、グローバルで3200以上の企業が参加する国際色豊かな組織となっています。いわゆるナショナルカンパニーと言われるような各国を代表するような大企業は2割程度で、8割は中小企業が参加しているのも特徴的です。

マーケットに即した話題を業界挙げて議論

 -幅広い業界、国際色豊かです


 サプライチェーンの上流から下流まで、電子材料からプリント基板、電子部品、セットメーカー、受託製造のEMSまで幅広い企業が参加しています。コンシューマ向けの電子機器や情報機器メーカーはもちろんのこと、高信頼性や高い品質、技術要求が求められる航空宇宙や飛行機、軍事関連、または医療機器などに関連した企業が多く参加しています。
 これら多種多様なエレクトロニクス関連企業が、エレクトロニクス業界を良くするためにマーケットに即した議論を、同じテーブルの上で、平等に進めているのがIPCです。

Build Electronics Better 業界を良くするための活動

 -どんな活動、議論をしているのですか


 社会はデジタル化が進み、それにともなってエレクトロニクス業界は今まで以上にさまざまな産業と関わりが深くなり、エレクトロニクス技術が欠かせないものになっています。IPCでは、エレクトロニクス関連企業やマーケットが要望していること、困っていることをまとめ、それを標準化し世界に発信しています。
 同時に、それを広く普及させ、正しく運用するための認証や研修・トレーニングを提供し、より多くのエレクトロニクス関連企業に参加を促しています。また各国の政府や公共機関に対してエレクトロニクス業界の意見を積極的な発信し、より良く活動できるよう働きかけています。
 また最近は新しい取り組みとして、エレクトロニクス業界で働く人々を手助けする、支援するプログラムも進めています。スマートファクトリーや自動車のEV化など技術と市場の変化に合わせ、現在またはこれから先のエレクトロニクス業界とそこで働く人々の課題に対し、彼らのスキルを高めるようなプログラムを提供しています。
 またサステナビリティ、ESG(環境・社会・ガバナンス)を扱うグループも活動を開始し、エレクトロニクス業界におけるSDGsの議論も進めています。

IPC日本委員会が発足 トヨタ、東海理化など自動車関連が多く参加

 -2022年にIPC日本委員会ができました


 日本には世界的にも有名なエレクトロニクス関連企業が大小たくさんあり、日本はエレクトロニクス業界を主導している立場です。もちろんこれまでにも個別にIPCに参加している日本企業はありましたが、それはあくまで限定的で、IPCとしてはもっと多くの日本企業が参加することを期待していました。また日本のエレクトロニクス業界の意見と技術を国際的な議論のなかに取り入れることができれば、もっと良い議論ができると考えています。
 そうしたなかで2021年のIPCの会合に、GMやフォード、ボッシュやコンチネンタルといった自動車関連メーカーと並び、日本からトヨタ自動車の初めての参加がありました。IPCにとっても日本の自動車業界、エレクトロニクス業界にとっても大きな出来事で、これが転換期になりました。この流れで、東海理化とトヨタ自動車を中心に、デンソーなど自動車関連企業が参加し、2022年にIPC日本委員会が発足しました。今では参加企業は70社を超え、今も増えている状況です。

ジョン氏とIPC日本代表の河野友作氏

EVの動向はじめ世界の最前線の情報が手に入り、意見が言える

 -IPCに参加するメリット・アドバンテージとは?


 IPCには、自動車や航空機、産業機械、家電製品といったセットメーカーをはじめ、電子材料から電子部品、電子基板などのサプライヤー、受託製造のEMS、実装機などの生産設備メーカーも含め、サプライチェーンと設計・製造プロセスのエンジニアリングチェーンの上流から下流まで、多種多様な立場のエレクトロニクス関連企業が参加しています。ユーザーやサプライヤーの枠を超えてエレクトロニクス業界で仕事をしているあらゆる企業が集まり、自らの業界と企業の利益になるための活動をする団体という意味では、他の標準化団体や業界団体とは異なるスタンスの組織です。
 そうした立場の異なる企業同士がオープンな場で、今、世界のエレクトロニクス業界で起きている問題や課題を話し合っています。IPCに参加すれば、そうした世界の最前線の情報を手に入れることができ、実際に議論に加わることもできます。
 日本委員会でも、自動車メーカーはティア1以外のティア2、ティア3、部品メーカーや機械メーカー、材料メーカーと同じテーブルでフラットな立場で情報交換をし、お互いの困り事や希望を議論しています。
 日本企業は閉鎖的なところがあり、日本市場と自らの取引先という限られた範囲のなかで情報を完結しているケースが多くあります。また自社の情報は何でもIP(知的財産)や機密情報と考え、オープンにせず外部から隠しがちです。そのため情報が出ない代わりに情報も入ってこないという状況があります。IPで保護するところと、共有する情報を整理し、もっとオープンにして必要な情報を発信することで、さまざまな情報を入手することが可能となります。
 今回、トヨタ自動車はIPCに参加を決めました。日本の他の自動車メーカーも関心を持ち始めています。さらにティア1やティア2、サプライヤーから多く問い合わせが来ています。今後もっと増えていくことが予想されます。

日本企業・市場を引き上げるためにも日本からの意見発信に期待

 -今後に向けて


 自動車のEVをはじめ、宇宙や医療機器、IoTといった全ての新しい産業、イノベーションにおいて電気は大切なものです。電気を正しく、効率良く作り、使うことができるようにエレクトロニクス業界のために努力していきます。
 日本については、IPCにとって日本は重要な市場であり、成長を期待しています。IPC日本委員会は、今は自動車関連が中心になっていますが、それ以外のエレクトロニクス関連企業にも参加してほしいと考えています。エレクトロニクス企業が直面している標準化や従業員、サステナビリティ等の問題・課題は1社だけで解決できるようなものではなく、業界を挙げて取り組んでいくものであり、IPCはそこに貢献することができます。
 IPCは国際標準化団体と言っていますが、もっとシンプルに表すと、世界中からエレクトロニクス業界の企業が集まり、業界・産業をより良くしようとしている「エレクトロニクス業界のコミュニティ」です。そのなかで日本企業は日本にいるというだけで地理的にも言語的にも不利で、自分たちの意見や要望がグローバルに取り上げられることは少なく、逆に世界で決まったことに対して追従するという状況です。それに対して今回、日本委員会ができたことの意味は、日本企業の意見を日本企業同士で日本語で議論してまとめ、それをグローバルの会議の場へ持っていき、日本の意見を国際標準へ反映するというプラットフォームができました。これをぜひ活用し、自社の活動に生かしてもらいたいと考えています。

https://www.japanunix.com/ipc/

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