ロシアとウクライナの戦争による政情不安や急速に進んだ日本の円安の影響で、原油やLNG(液化天然ガス)の高騰が止まらない。新型コロナの感染拡大に伴う海外のアロックダウンも加わり、樹脂などの原材料の入手難もまだ継続している。
原油やLNG価格の高騰は、われわれの生活に直ちに影響を及ぼすが、製造業にとっても同様で、いま毎月といってもいいほど、電気やガスなどの料金が上昇している。当然製造コストの上昇に跳ね返ることから、各メーカーはいかにエネルギー消費を抑えるかにいま知恵を絞っている。
2011年3月の東日本大震災で、東京電力福島原子力発電所が停止し、電力危機が起きた。ビルのエレベータは運転時間が制約され、階段を使った記憶が鮮明に残っている。原発の事故であったことから放射能汚染問題が起こり、エネルギーを原発からソーラーや風力など自然エネルギーの活用へ大きく舵を切った。同時に、エネルギー使用を減らす「省エネ」の気運が一気に盛り上がり、各所で取り組みが行われ始めた。ただ、省エネの取り組みはこれが初めてではなく過去にも行われた。記憶に新しいのは、1974~75年と78年~82年に起こった2つのオイルショックである。トイレットペーパーが無くなる騒ぎになったが、街のネオンが消え、スーパーやデパートは閉店時間を早めて省エネに協力した。ムーライト計画やサンシャイン計画なども提案されていた時である。
製造業は今までもコスト対策として常に省エネ対策に取り組んで来ており、タイムスイッチを採用した照明制御やデマンド対策による電力契約、表示機器光源のランプからLEDやLCDへの切り替えなどを行っている。FA制御機器そのものも省エネ対策を進める役割を果たしており、ひとつの市場を形成してきた。
いま、GX(グリーントランスフォーメーション)への取り組みが始まっている。脱炭素社会として温室効果ガスの排出量と吸収量を均衡させ、カーボンニュートラル社会の実現を目指すもので、経済産業省はこの目標を2050年に定めている。GXへの取り組み開始は、FA制御機器にとっても新たな大きな市場を創出するチャンスの到来といえる。その背景には、持続可能な状態を実現するサステナビリティ経営があり、環境だけでなく、社会や経済など多岐にわたる領域で取り組みが求められているからだ。今までの取り組みは、機械や生産ライン個々での省エネを実現するのが主で、工場や企業、さらには社会全体まで考慮した動きとしては弱いといえる。
GXの核となる脱炭素ではCO2への対応が大きな鍵を握る。現状はCO2の使用を減らす動きが先行しており、地球温暖化につながる化石燃料の使用をできるだけ減らし、自然エネルギーの活用を進めて対応しようとしている。より高効率のモータへの切り替え、水や紙の使用削減、人感センサの活用、さらには物流配送体制の見直し、省エネビル・工場への建て替え、電気自動車の活用など、工場の中から外部インフラまで及ぶ。こうしたCO2削減につながる商材の提案は、エネルギー価格の上昇している現在は、受け入れやすい状況を生み出している。
CO2の削減への活動の中心が行きがちであるが、一方でCO2活用したGXへの取り組みある。
CO2を「資源」ととらえ、素材や燃料に再利用することで大気中へのCO2排出を抑制する取り組みだ。経済産業省が「カーボンリサイクル」として提唱しており、利用先として、化学品、燃料、鉱物などを想定。化学品ではCDや筐体などに使われるポリカーボネート、燃料では光合成をおこなう小さな生き物「微細藻類」を使ったバイオ燃料などが、鉱物ではコンクリート製品などが考えられている。
すでに基礎技術は完成しており、商品化を進めているメーカーも出始めている。悪役とされていたCO2がお金になる時代が来るのもそう遠くはない。CO2を減らすと活かす、その両方で新しい市場が創出されようとしている。GXが新たなものづくりを生み出している。
(ものづくり・Jp株式会社 オートメーション新聞 会長 藤井裕雄)