今日のコラムでは、製造現場の最前線で働く技術者(オペレータとも呼ばれることが多いです)について考えてみたいと思います。生産現場に近い技術者、いわゆるオペレータに求められる育成ポイントは盲点になりがち。
技術者と一言で言っても、その職種によりさまざまに派生します。R&D、つまり研究開発に従事する技術者。主に情報技術を担い、アプリ製作やプログラミング、ソフトの構成を設計するIT技術者。
その一方で、製造現場にも技術者はいます。製品を組み立てたり、設備等を動かして製品を作る技術者です。前者の技術者は「エンジニア」後者は「オペレータ」と呼ばれることが多いようです。
今回は後者のオペレータと呼ばれることもある若手技術者の育成について考えてみます。
オペレータ育成の現実
どのような職種の技術者、つまり技術職の従業員を育成するにしても、マネジメントとして意識しなくてはいけないのは「結局のところ何が最重要か」ということです。理想を言い出すと育成ポイントは際限なく出てきてしまいます。
それをもちろん全てできるようになればいいですが、受け皿であるオペレータという技術者には「向き不向きという個性がある」ということ、さらに言うとオペレータの業務はそのまま製品の製造や出荷と関係する、つまり企業の売り上げに直結することから「悠長に時間をかけて育成する余裕は普通の中小企業にはない」という事実も重くのしかかります。
このような状況を踏まえて考えるべきは「オペレータの育成においては優先順位を明確にする」ということでしょう。この優先順位を決めるのも言うほど簡単ではありません。
そこで、まずマネジメントとして取り組んでほしいのが本項の冒頭でも述べた「オペレータの育成に最も重要なものは何か」ということになるのです。まずはここを足掛かりに育成をどのように進めるのかを考える、というのが妥当な手順といえます。
安全に対する意識は全てを上回る最優先事項
結論から先に言うと「安全に対する意識は最上位」です。危険な作業については若手であろうと、場合によっては新人であろうとすぐにでも意見を言う雰囲気を作り、常に改善をする必要があります。
製造現場において最も回避しなくてはいけないのは「人」という宝に傷がつくことです。設備は作り直すことができます。損失というお金もさまざまな挽回方法があります。しかし、人の体だけは元に戻すことはできません。
人を最も大切にする。その精神はオペレータの育成において最上位にあり、それについて会社は最善の注意を払い続ける覚悟が重要です。
オペレータに求められるのは決められたことを手を抜かずに継続すること
安全の次にオペレータにとって重要なのは「決められたことを手を抜かずに継続すること」です。もしかすると間違った手順や非効率な作業があるかもしれません。
しかし意見を言う前にまずは「言われたことをきちんとできるようにする」ということがオペレータには強く求められます。これは想像を絶する忍耐力が必要です。この忍耐力は、その後に控えるさまざまなオペレータが輝く業務の布石になります。
忍耐力は精神力というような言葉と絡められてあまり評価されない雰囲気がありますが、その後の本格的なオペレータの成長を考えると、若いうちに粘り強く物事を進めるということを身に付けないと将来的な成長が早い段階で頭打ちになります。
手を抜かずに決められたことを続けたオペレータに求められるスキル
安全上の問題がなければ、まずは徹底して決められたことを続ける忍耐力を身に付けると、さまざまなことが見え始めます。それは「製造現場で発生するさまざまな事象の本質」です。何となく非効率だと思った部分がどこからきているのか。
製品の不具合が何によって生じているのか。このような部分は経験を積み重ねないと見えてきません。事象が見えてくれば、その原因が何となく見え始めます。そして、この上でオペレータに求められるのは「原因として推測したものが正しいのかを、データという裏付けで検証する」という取り組みです。
ここまでくれば、必要に応じて品質保証や設備担当、研究開発部隊との連携も視野に入れて良いと思います。全てをオペレータが担う必要はありません。前述のような取り組みにおいてはマネジメントも連携をサポートすることが重要です。
ここで何より大切なのは感覚論ではなく「データという客観的定量指標で議論をする」ということです。マネジメントは日々の製造現場での疑問を述べ始めたオペレータの意見に対して真摯(しんし)に耳を傾け、その意見の妥当性を実証するためにデータで検証するということを後押ししてください。
このような取り組みこそが「本当の意味での生産性改善」に向けた流れとなります。
いかがでしたでしょうか。オペレータに対し、最初は忍耐を求めるというのは一見時代遅れのようですが、決められたことを黙々と続ける忍耐力がないと結局のところ本質が見えないのです。
AIやセンシング技術など素晴らしいものはいくつも世の中にありますが、それらにどのようなデータを取らせるのか、どのようなインプットで学習させるのかは人が決めることです。
どのような優れた技術もそれを使う人間が本質を見ていなければ、無用の長物と化してしまうことを今一度、認識することが重要だと思います。オペレータの育成指針検討の一助になれば幸いです。
【著者】
吉田 州一郎
(よしだ しゅういちろう)
FRP Consultant 株式会社
代表取締役社長
福井大学非常勤講師
FRP(繊維強化プラスチック)を用いた製品の技術的課題解決、該関連業界への参入を検討、ならびに該業界での事業拡大を検討する企業をサポートする技術コンサルティング企業代表。現在も国内外の研究開発最前線で先導、指示するなど、評論家ではない実践力を重視。複数の海外ジャーナルにFull paperを掲載させた高い専門性に裏付けられた技術サポートには定評がある。
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