制御機器や部品を扱うFA販売店はシステム案件を手がけるエンジニアリング営業を強化する店が多い。現在のFA機器販売員にとって攻めの営業は顧客深耕・課題解決・対競合拡販の営業活動である。FA販売店が指向するエンジニアリング営業は販売員のエンジニアリングスキルで顕在化している案件を引き寄せて早い段階で商談に参加することだ。それにシステム対応であるために単品見積もりのように競合を過度に意識する気苦労はないし受注金額も多くなる。だからFA販売店は攻めの営業をするためにエンジニアリング営業への思いを熱くする。しかし簡単ではない。エンジニアリングスキルを持つ販売員の育成や人材の確保は大変である。実際に顧客の要望を満足させるにはバックヤードに本格的なシステム技術要員を置く必要がある。その何人かの技術要員を遊ばせないようにするには絶えずシステム案件を追って受注を確保しなければならない。いい時もあれば悪い時もある。悪い時になんとか持ちこたえる資本の規模が必要になる。とにかくハードル高い。まだまだ自動制御の案件を追える程のマーケットがなかった頃、顧客開拓とはFAマーケット開拓でもあった。制御機器メーカーの営業が製造現場の技術者になんとか商品を使ってもらおうとして訪問するが現場の技術者が使う用語を理解していないと顧客はまともに相手にしてくれなかった。したがってここ一番が攻め時と思ったら自社の技術者を同行した。自動化マーケットが見え始めた頃メーカーの営業がいちいち自社の技術者を同行しなくてもいいように営業を理系出身者で固めた。当時、販売員と言えば人へのアプローチや人との折衝は上手だが技術力はからっきしだめだというのが通り相場であった。だから一般的に営業はセールスマンと言われていた。しかし制御機器メーカーの営業はセールスエンジニアと称していた。製造現場では自動化をしようという機運が高まっている時だったから製造現場の技術用語を理解する営業は現場の技術者の相談相手になった。顧客の相談も数をこなしていればいっぱしの製造現場つうになる。それまでにはなかった商品の開発を自社の工場や研究所に依頼し制御商品の種類をふやした。そうして制御機器やパーツを使うマーケットは急速に広がった。80年代には自動制御は高度化をつづけ商品は高機能商品がふえた。FA機器メーカーの営業だけでは多くの顧客に対し高機能化した商品の説明や対応ができなくなったため販売店を巻き込み、商品を通して技術的スキルの育成を計った。そしてその延長線上で余裕のあるFA販売店にはエンジニアリング力を要請しその育成にあたった。こうした経緯をたどって元来は理系を不得意とする販売店がエンジニアリング営業部を持つに至ったのだ。エンジニアリング営業部を持っていないFA販売店でもシステム案件に参入できるように販売員の技術的スキルの育成に力を入れている。というのも平成はデフレ期であったから思うように国内のFA売上は伸びなかった。それをシステム受注でのカバーを考えたからである。しかし販売店は商社であってエンジニアリング会社ではない。販売店が商社であり続けるにはエンジニアリング力を過大視してはならない。あくまでもFA販売店の持つ営業力を補完するスキルとすることだ。販売店が商社であるためには技術力で生計を立てることではなく情報力で生計を立てることである。したがってFA店の持つエンジニアリング力は顧客に内在している潜在的な需要情報を入手するスキルなのだ。
令和の販売員心得 黒川想介 (91)エンジニアリングスキル持ち 顧客の潜在的需要情報を入手
- 2023年6月3日
- コラム・論説
- 2023年5月31日号, 令和の販売員心得
オートメーション新聞は、1976年の発行開始以来、45年超にわたって製造業界で働く人々を応援してきたものづくり業界専門メディアです。工場や製造現場、生産設備におけるFAや自動化、ロボットや制御技術・製品のトピックスを中心に、IoTやスマートファクトリー、製造業DX等に関する情報を発信しています。新聞とPDF電子版は月3回の発行、WEBとTwitterは随時更新しています。
購読料は、法人企業向けは年間3万円(税抜)、個人向けは年間6000円(税抜)。個人プランの場合、月額500円で定期的に業界の情報を手に入れることができます。ぜひご検討ください。
オートメーション新聞/ものづくり.jp Twitterでは、最新ニュースのほか、展示会レポートや日々の取材こぼれ話などをお届けしています