機器部品の販売員ははっきりと分けているわけではないが自分達は営業職であって販売職ではないと言う。それでは営業職と販売職はどのような違いがあるのかを聞いて見る。大方の販売員は販売とは物を売るセールスマンの仕事であるが営業は単なるセールスではなくお困り事や課題の解決をする仕事であると思っているようだ。今どき、セールスマンを押し売りと思っている人はいないだろうが、セールスマンと言えば手を変え品を変えて自分の都合のいい事を強調し購入の決心をせまってねばる人というイメージがある。機器部品の販売員はそのようなイメージを持たれたくないと思っているようだ。しかしお困り事や課題を解決する営業活動は継続的な取引をしているという条件があるから成立する。
あるいはネットや紹介を通じて要請があるから成立するのである。このような条件がない新規客を攻める場合ではやはりセールスマンである。新規客と名刺交換して、すぐに新商品や扱い商品の紹介になる。従来品との比較、色々な使われ方によるメリットなど都合のいい点を強調し、取引きや購入の決心をせまることになる。それで購入や取引の意見がなければあっさり引さがる。このあっさりがセールスマンではないと言いたいのかもしれない。販売員も営業マンも同じ営業という仕事であるが販売員のイメージが営業マンと比べて悪く感じるのは顧客に嫌がられたくないという背景から来るものである。販売員とか営業マンに関係なく誰だって相手に嫌がられたくないのは当然である。だから人は嫌がられまいとして、それぞれのやり方で対処する。その判断は相手への理解度によるのだ。かつて江戸から明治の世になった時に武士階級がなくなった。武士は一時金をもらって農業をするか、職人になるか、商人になるかの選択をせまられた。手っ取り早くやれそうな商人になる武士は多かったがほんの一部を除いてことごとく失敗に終わった。その失敗を武士の商法と揶揄した。失敗の因は仕入れた商品を並べて置けば必要とする客が来店して買ってくれると思ったことではない。学問を修めた武士である。来店客から商品に関して色々質問されてもいいように問屋から教わり、正しく商品を説明した違いない。失敗の因は頭の下げ方や愛想よく振舞わなかったからのようだ。
しかしそれは武士のプライドの問題ではなく、来店客の気持がどうなっているのかを理解しようとしなかった事であり、その事が武士の商法の本質なのだ。機器部品の販売員はそれまでやってきた経験の範囲で顧客を知っている。どの程度知っているかとなると実際には用件・案件の打合せ時に経験したことによる。製造現場が積極的にFA化を進めていた時代には技術者との打合せ時にピンポイントの話だけでなく工場のFA化を視野に入れた話が飛び出していたから販売員は広範囲で顧客を知ることができた。主力のFA化が終っていた時代には現場の技術者は補修・改造・改善・リニューアル等の仕事で販売員と打合する事が多かった。その打合せの場では技術者は工場全体を視野に入れた話をする事はなく、当該用件の話に終止した。
令和に入って販売員の仕事は現場の技術者との打合せはそれ程多いというわけではない。むしろ後方で処理する仕事が多い位だ。つまり顧客の表面的なことしかわからなくなった。少なくなった面談の折でも顧客を理解しようとして臨むわけでもなく、何とか自分の益になる情報を取ろうと必死だ。しかし相手を理解しようとせずして、いい情報に当たることはない。理解しようとしない事は武士の商法と似たり寄ったりなのだ。