フエニックス・コンタクト ICE統括本部 PRA部(Power Reliability Application) 部長 木本敏広 氏
TRIO POWERプロダクトマネージャ アレクサンダー・ハネケ氏
制御盤用機器の接続方法は、スプリング式、いわゆるPush-in接続が急速に広がっていますが、電源系統はねじ式が根強く使われています。しかし近年はPush-in化したスイッチング電源が採用されるケースが増え、「電源系統でもPush-in」という流れができつつあります。
その流れを作ったのが、業界に先駆けてPush-in接続を採用したフエニックス・コンタクトのスイッチング電源「TRIO POWER(トリオパワー)」シリーズ。電源へのPush-in採用は、日本法人の熱意とねばり強い要求によって実現しました。TRIO POWERへのPush-in採用と新製品「TRIO POWER 3」について、フエニックス・コンタクト 日本法人のICE統括部 フィールドマーケティング 部長 木本敏広 氏と、ドイツ本社のTRIO POWERプロダクトマネージャのアレクサンダー・ハネケ氏に話を聞きました。
制御盤へのDINレール電源をグローバルで展開
ーー御社の電源製品について教えてください
木本氏
弊社は制御盤で使われるDINレール電源(DINレール取付型スイッチング電源)を展開し、上位機種から順に、ハイエンドモデルの「QUINT POWER(クイントパワー)」、ハイスタンダードモデルの「TRIO POWER(トリオパワー)」、ベーシックモデルの「UNO POWER(ウノパワー)」、フラットモデルの「STEP POWER(ステップパワー)」の4つのシリーズをラインナップしています。
ハイエンドモデルのQUINT POWERは、インフラやプラントなど一度設置したら半永久的に長く使われる用途に向けたもので、長寿命や冗長化に加え、消費電力や寿命など監視機能に優れています。ハイスタンダードモデルのTRIO POWERは、主にFAの制御盤をターゲットとしてブースト機能とモニタリング機能を強化し、ベーシックモデルのUNO POWERとフラットモデルのSTEP POWERは、無負荷損失が低く、コンパクトなDINレール取り付けタイプのスイッチング電源となります。
ーー盤内の電源といえば、日本では中板に取り付けるタイプが多く使われています
木本氏
欧米では他の盤用機器と同じように、電源もDINレール取り付けタイプが一般的ですが、日本ではDINレール電源を作るメーカーがなく、先に汎用ユニット電源が制御盤でも普及したため、中板に直接取り付ける手法が一般的でした。しかし、各メーカーも製品を取りそろえてきており、DINレール電源のシェアは伸びています。
弊社のTRIO POWERの2世代目となる「TRIO POWER 2」も2022年に最高販売数を更新し、このほど3世代目となる「TRIO POWER 3」を発売する予定です。
DINレール取付&Push-in採用でヒット商品に
ーーTRIO POWER 2が好調となった理由は?
木本氏
2015年の発売当初は弊社の電源の知名度が低く、DINレール電源も普及していなかったことで苦戦しましたが、日本でDINレール活用が当たり前になっていったこととPush-inの普及が追い風になりました。
いまはPush-in続が当たり前になっていますが、当時は日本でも端子台をはじめ盤用機器のPush-inが本格的に普及してきた時期です。TRIO POWER 2は電源機器として接続方式にPush-inはじめて採用し、Push-in化の大きな波に一緒に乗れたことが大きかったと思います。
ちなみに、TRIO POWER 2へのPush-in採用は日本法人からの発案です。日本のアイデアがグローバルの製品に採用されてヒットし、今ではスタンダードとなっています。
電源へのPush-in採用は日本からのアイデア
ーー電源のPush-in化が日本発だったとは初めて聞きました
木本氏
電源機器の結線方式について、日本だと今もねじ式で丸型圧着端子が多く使われていますが、TRIO POWER 2の開発当時の2010年代初頭は、欧米でも欧式ねじ式と言われる、ねじのケージクランプ式の結線方式が主流でした。弊社も社内では端子台など盤用機器のPush-inを推し進めていたにも関わらず、電源機器へのPush-in用には「電源系統だから」という理由で懐疑的でした。
しかし日本法人ではスイッチング電源でもPush-inが必要であると考え、Push-in採用に向けて必死に社内ロビー活動を行いました。ドイツ本社の電源ビジネスユニットからは「世界的にねじ式が無難である」と何度も却下されましたが、繰り返し粘り強く言い続けた結果、TRIO POWER 2の開発は日本法人と意見交換をしながら進めるということになりました。
実際は、電源事業の売上はQUINT POWERが引っ張っていたので、TRIO POWER 2ではPush-in化に挑戦できたのでしょう笑。
ーーねばり勝ちですね。開発は順調に進みましたか?
木本氏
私は外からガンガンと意見を言う役割でしたが、当時のドイツ本社の製品担当との折衝もはじめは手こずりました。それでも、市場やお客様からの声、販売の最前線にいる営業の声をまとめ、熱意を込めて真剣に会話することで本社側も理解してくれ、そこからはうまく進んでいきました。
TRIO POWERはFA・制御盤用となるので、インフラやプラント向けのQUINT POWERほど多機能でなくても良く、シンプルでスリム、さらに強靭さが必要でした。そのためTRIO POWER 2では「世界最強のFA用電源」を目指しました。端子台は弊社の基板用端子台「COMBICON」を採用し、サイズも小型化し、新機能として「ダイナミックブースト機能」を追加しました。負荷の突入電流があっても立ち上がるよう瞬時ハイパワーを出力する機能で、FAで考えられる突入電流は数秒あれば十分なのでブースト機能はどうしても欲しかった機能でした。
酷評を乗り越えて今ではPush-inが電源の定番に
ーー苦労の末完成したTRIO POWER 2ですが、社内の評価はどうでしたか?
木本氏
他国からの最初の評価は最悪でした笑
グローバルへの披露の場で、「日本の意見も取り入れて開発した次世代のFA用電源」だと打ち出したのですが、特に欧米諸国から「電源ラインはねじ式だろ?」「何で日本に聞くのだ?日本は電源がそんなに売れてないだろう?」「なぜ欧米の意見を無視するのか?」など厳しい意見が圧倒的でした。当時、欧米では信号系のPush-inも普及途上にあり、そこを電源でやろうとしたので想像以上に叩かれました。一方で、少数ながら欧米でもブースト機能やスリムさはFA用にはちょうど良いと評価した人もいて、これを欧州ねじ式で出して欲しかったという声もありました。私も製品担当も非常に肩身の狭い思いをしましたが、色んな英語が嫌味やストレートな反発を受けるのも貴重な体験でした笑
それでも年々、電源のPush-inも欧米で理解されて普及し、いまでは保守的な業種以外、特にターゲットとしたFA業界ではとても好調です。 Push-inばかり目がいきがちですが、TRIO2もTRIO3も彼らと作り上げた特長はこれだけではありません。スリムさ、ブースト機能なども日本発で訴えた仕様です。日本発と言っても良いTRIO POWER 2が世界中で売れ、とても嬉しく感じています。
小型・強靭化、さらに便利機能が追加された新製品TRIO POWER 3
ーー後継機種としてTRIO POWER 3の発売が予定されています。特長やアップデートした点など教えてください
アレックス氏
TRIO POWER 3は、TRIO POWER 2に続く「世界最強のFA電源」として、スリムさと強靭さに磨きをかけています。
Push-inはTRIO POWER 2からそのまま引き継ぎ、サイズは480WでTRIO POWER 2に比べて幅を20%、体積では35%削減し、見た目から小さくなったことが分かるほど小型化しています。取付け方向もDINレールアダプタによって縦横の両方に対応し、設計自由度が高くなっています。また配線作業をサポートする機能として、その機種に適合する電線の線径と剥き線長さを筐体に印字またはラベルで表示しており、作業時に調べる手間を省き、ミスも防止しています。
新たに追加したものとしてモニタリング機能があります。3色に変化するLEDを前面に配置し、緑は正常、黄色は90%以上の負荷状態、赤はショート、点滅は故障を表し、点灯によって機器の状態が一目で分かり、保守・メンテナンスに便利です。
さらに追加モデルとして、電源とサーキットブレーカを一体化したモデルもラインナップしています。電源に4・8系統のサーキットブレーカが付き、それぞれを別々に取り付けた時よりも69%小型化でき、サーキットブレーカの電流値の設定も簡単に行うことができます。IO-Linkにも対応し、機器の状態のリモート監視にも対応しています。
日本とドイツのコラボレーション製品 世界で拡販へ
ーーTRIO POWER 3の発売と今後に向けて
木本氏
TRIO POWER 3の開発には3年前から携わっていて、違う国、違う文化を持つ人間が理解し合い、協調して何かを作り上げる過程に生きがいを感じてきました。その集大成としてかっこいい製品、役に立つ製品が世に出すことができ、とても満足しています。
すでにグローバルでも日本でも受注を開始しています。これからお客様への提案をますます強化し拡販していきます。
アレックス氏
日本法人は、TRIO POWER 2で電源のPush-in化という固いドアをこじ開け、実績も作ってくれました。そのためTRIO POWER 3の開発が始まった時、部署内では「真っ先に日本に相談しよう」ということになり、日本の意見も多く取り入れています。TRIO POWER以外のシリーズでも、弊社の電源には多くの日本発のアイデアが採用されていて世界中で貢献しています。日本とドイツはいずれもFAが強い国で、私たちはしっかりとコラボレーションした良いチームだと思います。
TRIO POWER 3の開発を通じ、ここまで国を超えた人間同士が真剣に語り合うことになろうとは思っておらず、色々と成長することができました。この成果としてTRIO POWER 3が世界を席巻する電源になってほしいと願っています。