働き方改革の一環として、2024年4月から自動車運転業務の年間時間外労働時間の上限が960時間に制限される。これによって運送業界や物流業界では、トラックドライバーの時間外労働時間が制限されることから、「2024年問題」として対応が求められている。
国内の配送は現在のようにトラック輸送が一般化していない頃は、鉄道を使った輸送が主力で、最寄りの駅やターミナルからはトラックなどを使って配送することが多かった。筆者も学生時代に物を送るというと、最寄りの駅に行って「チッキ」という方法で布団や本などをよく送ったことがある。
その後、国内の物流は高速道路網の整備などもあり速くてきめ細かなトラック輸送が増加し、とくに宅配便の一般家庭への普及によりわれわれの生活は飛躍的に便利になった。その一方で「チッキ」は1986年には廃止になっている。
いまはFA業界でも製品や材料などの配送でトラックが中核として利用されている。「ジャストインタイム」という言葉で、「必要なものを、必要なときに、必要な分だけ」を配送する方法で、工場の「かんばん生産方式」を支えている。なかでも自動車組み立て工場は「かんばん生産方式」の代名詞的な存在として知られている。在庫の無駄を省け、コスト削減やリードタイムの短縮に貢献するということがメリットとして挙げられている。この恩恵は、メーカーだけでなく、商社やユーザーも享受しており、なかば当たり前のサイクルになりつつある。しかし、「2024年問題」としてこの当たり前のサイクルを考えると、どこか歪(いびつ)さを感じざるを得ない。
われわれの身の回りの生活をみても、コンビニエンスストアは弁当やパンなどは1日3回の配送を行っているという。鮮度の確保と品切れを防ぐのが狙いだ。インターネットや電話での注文販売でも当日配送を行っているところがある。当然この配送を実現するためにたくさんの人が携わり、その中にはトラックドライバーも関わっている。
最近少し沈静化しつつあるFA機器や原材料の品不足による納期問題も、こうした頻繁な配送に伴う「ジャストインタイム」の流れと全く無縁とはいえない。「ジャストインタイム」は在庫を出来るだけ持たないことを基本にしているが、裏返せば在庫を持つことはこれに反することであり、「在庫は悪」の考えにつながる。
FA業界でもこの考えから、できるだけ在庫を持たない経営をメーカー、商社とも優先する傾向にある。物流サイクルが問題なく稼働している時は効果的な取り組みであるが、20年から拡大した新型コロナ感染症下では、このサイクルが崩れ、大きな納期トラブルに見舞われる一因になった。大災害や特定メーカーしか作っていない製品の工場火災などが起こると、生産ラインがストップすることがよくある。「ジャストインタイム」の負の影響だ。以前は商社などが一定の在庫を有し、こうしたトラブル時でもバッファの役割を果たすことが多かったが、いまは豊富な在庫をセールスポイントにする商社も少なくなっている。
「2024年問題」はFA業界にとっても大きな課題であるが、その解決策のひとつは在庫への意識改革である。FA機器は食品のような鮮度が求められるものではなく、生産してから数週間以上の保存に耐えるものである。注文以上の在庫を持っていたとしても、販売できなくなるものではない。注文以上の在庫負担が経営に影響を与えることへの懸念を、「2024年問題」解決のコスト負担と割り切ってはどうだろうか。トラックの配送が1日ぐらい遅れても対応できるだけのバッファを持つことで、トラックドライバーの負担を軽減にもつながる。
もうひとつの「2024年問題」の解決策は、前述した鉄道輸送の再活用だ。現在、一部で鉄道貨車にトラックを載せた輸送が行われているが、これをさらに推進することだ。時間的にはトラック輸送の方が早いのだろうが、時間面を多少我慢することで、「2024年問題」に対応できる。さらに、地方を中心にJRの赤字路線廃止が進んでいる。人口が減り、自家用車が普及する中で、赤字路線を維持するのは非常にハードルが高いが、貨物輸送との併用を前提とすることで、赤字の補填にも繋がる。そして何よりも、いま世界で取り組んでいる環境負荷の低減につながるトラックからの排ガスを減らすことにも貢献する。
便利さに慣れ切った我々の生活の中で、それぞれが多少の負担と我慢を分かち合うことで新たなサイクルが生まれてくることになる。
(ものづくり・Jp株式会社 オートメーション新聞 会長 藤井裕雄)