今回で本コラムも100回目の連載を迎えた。月一度の掲載である本稿は、2014年11月の第1回目掲載から8年以上の月日が過ぎ去った。これまで中小製造業のデジタル化に焦点を当て、私の会社(アルファTKG)の日常業務から見た『お客様の現状課題』や『最新技術動向』、そして『海外動向』をベースに寄稿をしてきたが、8年間の間に中小製造業を取り巻く環境は激変し、この間に「人手不足」の課題は深刻度を増している。 現場熟練工の老齢化は進み、現場作業員の不足も日常化し、精密板金業界でもM&A(合併や買収)の話題が日常茶飯事の傾向にある。一般的には「人手不足」の対応策として、外国人労働者の活用が叫ばれている。経済界からも外国人労働者や移民労働者の流入を緩和する要望が出され、日本政府もこの要望に応えている。ところが世界を歴史的に眺めると、外国人労働者を使って製造業が強くなった国はどこにもない。特に移民・難民に寛大な政策を行なってきたドイツを始めとする欧米各国は、その後遺症に悩まされている。 日本も本格的な人手不足が中小製造業に忍び寄っている。現場労働者の不足のみならず、社長はじめ経営陣の後継者不足に直面している企業が多い。経営陣の不足には外国人労働者では対応できない。経営陣の人材不足は深刻であり、M&Aが横行する原因はここにある。10年前には顕在化していなかった『重要かつ緊急』の経営課題である。
100回目の本稿では、オートメーション新聞の名にふさわしい『自動化 テーマ』に取り上げ、これからの連載テーマとしていきたい。幸いにして、AI(人工知能) やRPA(ソフトロボット)、そして協働ロボットなど、技術インベーションは目覚ましく、これらの最先端技術を中小製造業が活用できる地合いが整っている。この点に注目し、中小製造業のDX化・自動化テーマを深掘りして、次回より連続的に寄稿する。
話題が変わるが、日刊工業新聞の記者が当社に来社し、『感銘を受けた本を紹介し、その理由を語って欲しい』と要請された。その取材の記事は、6月19日付日刊工業新聞の25面に載っているが、この記事を参考に本稿のテーマである「人手不足」の遠因を探っていきたい。日刊工業新聞社の取材記事は、私の話に『日本という中心軸を持ち世界を見る』というタイトルをつけている。 私が感銘を受けた本は、塩野七生(しおのななみ)著の『日本人へーリーダー編』である。 取材を受けた私の話を日刊工業新聞の記者は次のように要約し、新聞に掲載している。
『私は、学生の頃から海外に関心を持ち、社会人になってから30年間、欧米を始めとした各国を渡り歩いてきた。海外でたくさんの中小企業経営者に会ってきた。そうした触れ合いの中で、日本に対する海外からの大きな信頼を感じ、世界に影響を与えた尊敬すべき日本人を知り、「日本人とは何なのか」という問いへの気付きを得ることができた。一方、 国内では「日本はダメだ」という自虐的な風潮を強く感じる。そうした中で塩野七生著の 「日本人へーリーダー編」を読んだ。《中略》作者が日本という中心軸をしっかり持って世界を見ていることに大変感銘を受けた。中心軸を失わずにイタリアに渡り、現地に根を張ったこその著書だろう。《中略》非常に長い歴史と文化を持つ日本人がなぜ自虐的になり、「海外では」を連呼する”出羽守(ではのかみ)”が増えてしまったのか。日本では歴史や文化が封じ込められているように思う。《中略》これからの時代、日本人は欧米崇拝でなく、自らの持っているものをしっかりと見て、奢り(おごり)ではなく誇りを持つことが大切だろう。《後略》 塩野七生著の「日本人へーリーダー編」は中小製造業の経営者の諸兄に読んでいただきたい名著である』。
中小製造業にとって「DXと自動化」の実践は人手不足克服の絶対条件である。これらの最新テクノロジーは、残念ながら「欧米発の技術」である場合が多い。明治維新の時代と同じで、欧米の最新技術をいち早く導入することが、日本国家のみならず、企業が生き残る必要条件であることに疑いの余地はない。ところが、どんなに優れた「DXと自動化」工場が実現しても、今働く従業員がモチベーションを失い、長期に働ける企業環境を失ったら、人材不足への対応策としては不十分になってしまう。「日本人の誇り」「日本人のものづくり遺伝子」を社員全員が共有し、日本が長きに渡って育んだ『ものづくりへの誇り』を再認識することが非常に重要である。『日本はダメだ』『うちの会社はダメだ』という自虐的な考えの先に未来はない。
『ものづくり』には高度な文化と高度な技術が必要である。『ものづくり』に誇りを持つ中小製造業でなければ、人手不足を克服することは難しい。 人手不足に直面する日本の中小製造業こそ、「日本という中心軸」を再認識した上で、「DXと自動化」構築を推進すべきである。
◆高木俊郎(たかぎ・としお)
株式会社アルファTKG社長。1953年長野市生まれ。2014年3月までアマダ専務取締役。
電気通信大学時代からアジアを中心に海外を訪問して見聞を広め、77年にアマダ入社後も海外販売本部長や欧米の海外子会社の社長を務めながら、グローバルな観点から日本および世界の製造業を見てきた。