株式会社才流の岸田です。新型コロナウイルス感染症が5類感染症に移行され、街やイベントにも賑わいが戻ってきましたね。先日、秋葉原を訪問したのですが、海外からの旅行客もたくさん見かけました。今後の経済活動の活性化も期待したいところです。
企業活動としてはリモートワークから出社への回帰、展示会出展の再開など、従来の活動に戻る動きも見られるようになってきました。一方で、Web面談やデジタルを活用したマーケティング活動のような、コロナ禍での変化をそのまま適応している部分も多くあるように思います。
マーケティング手法はますます発展し、BtoB製造業でもマーケティング活動に取り組む事例が増えています。しかし、業界特有の商習慣があることから「一般的なマーケティングの話は自分たちにはしっくりこない」と感じたことがある方も多いのではないでしょうか。
そこで今回は、BtoB製造業に特化して、マーケティングの役割と効果的な施策について解説します。
フローチャートで自社のビジネスモデルを判定する
本記事では、BtoB製造業のビジネスモデルを3つのパターンに分けて、それぞれに最適なマーケティング施策について解説しています。
まずは以下のフローチャートを使って、自社のビジネスモデルのパターンを判定してください。
※作成:株式会社才流
- 質問1:商材の単価が20万円以上か
- 質問2:カスタマイズ品か、規格品か
- 質問3:新規顧客の開拓が中心か、既存顧客のリピートが中心か
パターンA:高単価・案件獲得型
パターンAは、いわゆる設備投資の案件を獲得するための取り組みに該当します。商材としてはハンディターミナル、自動化設備、顕微鏡、レーザーマーカー、産業用ロボットなどが挙げられます。
いずれの商材も高単価のため、顧客との商談は複数回にわたります。商材の理解から技術仕様の確認、デモや実機確認など、検討に数か月、数年かかるようなケースも多くあるでしょう。
新規案件を獲得しつづけることが必要なので、マーケティング活動も営業に案件を供給しつづけることが大切になります。
また、初回接触から商談化まで一年以上の期間を要するケースもあります。定期的な情報発信を通じて顧客の検討タイミングを逃さずに把握し、営業へ連携しましょう。
パターンAの場合は、以下のような施策に優先的に取り組むのが効果的です。
- 認知・リード獲得(展示会への出展、コンテンツマーケティング、業界メディアの活用)
- 製品サイトのCV率の改善
- キャンペーンサイト、LPの構築
- メールマーケティングと反応があった顧客へのフォロー(インサイドセールス)
- ノウハウウェビナー、事例ウェビナー
- SFAの導入と案件管理
パターンAは、商材の単価に加えて、サポートや保守部品なども含めた顧客生涯価値(LTV)も高く、リード獲得単価が高くなる傾向があります。たとえば100万円以上の商材であれば、リード獲得単価が数万円になるケースもあるでしょう。
また、リードを獲得した年度に受注につながらず、次年度以降に購入するケースも多くあります。リード獲得とあわせてメールマーケティングやインサイドセールスで定期的な接点を構築し、商談化のタイミングで安定的に営業へ案件を供給できる状態をつくるのが重要です。
パターンB:低単価・案件獲得型
パターンBは、商材の単価はパターンAほど高くないものの、顧客ごとにカスタマイズが必要で、新規顧客を開拓しつづける必要があるビジネスです。
商材の例として特殊なセンサーやモーターなどのカスタマイズ品、金属・樹脂加工品、板金加工品などの加工業、小規模の設備などが挙げられます。パターンAと同様、案件を営業に供給し続けることが重要です。
パターンBの場合、営業メンバーが既存顧客の対応をしながら、片手間で新規開拓をしているケースも多いと思います。そこで営業のリソースを確度や重要度が高い案件、顧客との接点に使えるように設計すると、バランスのよい役割分担になります。
以下のような施策に優先的に取り組むとよいでしょう。
- コンテンツマーケティング(リード獲得と認知獲得)
- 郵送、FAXなど紙を使ったDM(エリアや業界を絞ったリード獲得と認知獲得)
- CRM構築
- 顧客情報取得の型化
- 営業名刺のデジタル化
- 1to1メール(メールマガジンではなく、営業名義での一斉メール配信)
- サービスサイトのCV率の改善
新規顧客のリード獲得には、事例や用途例、ノウハウをコンテンツ化して配信するコンテンツマーケティングが有効です。新規顧客に対して自社の技術力や実績、ノウハウをPRすることで、取引前の信頼構築にも貢献します。自社の得意な領域を積極的に文章化したり、事例の写真を用意してWebで配信したりしましょう。
また、検索からの流入が少ない商材の場合は、Webでのインバウンドだけではリードが不足することも予想されます。案件を発掘できるように、エリアや業界を絞ってターゲットリストを用意し、郵送やFAXなどの紙でのDMやテレアポを使った新規開拓もあわせて検討するとよいでしょう。
パターンC:低単価・既存顧客リピート型
パターンCは、新規獲得よりも既存顧客からのリピート発注や次期案件の開拓が多いビジネスを想定しています。商材の例としてはセンサー、画像センサー、キャスター、ポンプ、モーターなどの規格品で、市場にある程度製品が浸透しているものが挙げられます。
パターンA・Bとは異なり、既存顧客からの案件を取りこぼさず、継続的に獲得しつづけることが重要です。ルートセールスとして、営業が既存顧客を定期訪問している企業も多いと思います。
顧客ごとに担当営業が決まっており、その人にしか分からない状況になっている、既存顧客が多く営業が回りきれていない、あるいは顧客との接点の状況が分からないなどの課題をよく耳にします。パターンCの場合は、そのような課題の解決が大きなテーマとなるでしょう。
以下のような施策が効果的です。
- CRM構築
- 営業名刺のデジタル化
- 顧客情報取得の型化
- メールマーケティング
- ECサイトの構築、ECサイトプラットフォームの活用
- 新規事業開発(新市場攻略、新製品開発)
重要なのは、顧客基盤に基づいた売上の最大化。CRM構築とCRMへの顧客情報の蓄積、メールマーケティングを通じた顧客接点の強化、購買のきっかけを見つけるといった施策に取り組みましょう。
また営業が属人化しており、顧客情報を蓄積できていないという課題もよく聞きます。顧客情報を取得したら、決まったルールで蓄積していく取り組み、制度設計をしておきましょう。急な退職などによる引き継ぎロスを減らすことも可能になります。組織として営業をしている、という状況をつくることも重要です。
BtoB製造業のマーケティング活動は、「Webで検索してもよい事例が見つからない」という声をよく聞きます。また一般的なマーケティング支援サービスは自社には合わないと感じるケースも多いようです。今回の記事が、取り組み内容や優先度を検討する際のヒントとなれば幸いです。
岸田 慎平 株式企業才流 コンサルタント
新卒でIBMコンサルティング部門にて業務改革&IT領域のプロジェクトを経験後、BtoB製造業に特化した販売支援をするベンチャーへ転職。大手企業から中小企業まで幅広く、150社以上の販売戦略の立案から施策実行までをトータルに支援。自社の営業企画やマーケティング、営業マネジメントなどを経験したのち、2020年より株式企業才流にてコンサルタントとして活動。中小製造業の経営企画や事業戦略策定、IT化の支援などにも取り組み、製造業を総合的に支援できるコンサルタントを目指して取り組んでいる。