AIやIoTを駆使したDXへの注目が集まり、これに関連する会社はこれからの有望業種として就職を希望する学生が増えている。日本の就職先の人気業種は時代と共にこれまで大きく変化してきた。エネルギー産業として石炭など鉱山関連、化学繊維が登場して注目を集めた繊維産業、鉄は国家なりとして鉄鋼産業が脚光を浴び、半導体などの開発で大きな技術革新となった電気・電機などのエレクトロニクス産業、そして現在は自動車産業が国内経済の柱をとなって支えている。自動車産業の裾野は広く、これにエレクトロニクス技術が融合して柱を太くしているが、その自動車産業ですらこれからも有望業種の地位を保持できるかどうかはわからない。AIやIoTなどがベースとなった新たな産業が創出される可能性がないとは言えないからだ。
それではエレクトロニクス技術をベースに展開しているFAや制御機器の将来はどうなるだろうか。創業100年を超える企業が増える中で、FAや制御機器は戦後創業した会社が多く、創業70年前後のメーカーや商社が圧倒的に多い。メーカーもFAや制御機器を幅広く揃えた総合メーカーと、特定製品に特化した専門メーカーに分かれ、商社も同様に総合商社と専門商社に分かれる。総合商社は業種に関係なく製品・材料を幅広く扱うことからよく知られているが、専門商社は扱う製品・材料によって細かく分かれることから数は圧倒的に多い。
FAや制御機器のメーカーもいまは数の上では専門メーカーが圧倒的に多いが、戦後の創業期は各社が市場から求められるものを何でも作っていた総合的な会社が結構あった。しかしその後、同種の製品が増え競争が激しくなってきたこともあり、多くの会社が得意の技術・製品に的を絞った戦略に変更するようになり、専門メーカーが増えるようになって現在に至っている。
専門メーカーは「ニッチトップ」という言葉をよく使う。小さい市場であるがトップシェアを取れば大きな売り上げにつながる。しかもさほど大きな市場ではないので大手メーカーは参入しづらいという目論見である。しかし、FA・制御機器の専門メーカーでも8000億円近い売上高で、総合メーカーに匹敵する実績を残すところも出てきている。ここでいうニッチトップは大手メーカーが市場に参入しづらいのではなく、参入できないニッチを築いているといった方が正確かもしれない。
そこでFA・制御機器の業種としての将来はどうなるかであるが、結論から言うと製品・技術が広範囲な領域で中核となって活用され、しかもハイテクというよりはローテクに近い形で浸透していることで、産業の変遷に左右されないポジションになっている。FA・制御機器は工場だけでなく、農業・漁業から宇宙機器まで利用されており、この製品・技術が世界の産業を支えているといっても過言ではない。裏返すとFA・制御機器がなくなると世界は回らなくなるとことになる。
ただここで気をつけなければいけないのは、FA・制御機器が主役になっていけないことだ。以前、スマート農業への参入を目指したFA・制御機器メーカーがあったが数年で撤退した。採算が合わなかったからだ。FA・制御機器の実験場であれば経験を活かせただろうが、農業を事業として経営するにはあまりにも負担が多すぎた。FA・制御機器はあくまで裏方としてあらゆる産業の発展を支える。筆者の実家ではぶどうを作っているが、ぶどうを種なしにするためにジベレリンという液体にぶどうの房を一個一個浸すが、この機械にマイクロスイッチがついており、このスイッチ操作で液体を噴霧する。農業の現場にも制御機器は活用されているのだ。
いま農業にもAIやIoTを導入する取り組みも目立つが、天候、土壌といった自然を相手にしながら、作物ごとの特性を考慮するとなかなかハードルは高い感じがする。農業の熟練者が作物と毎日対話する姿勢から得る感覚には勝てない。
「産業のニッチトップ」を目指すのがFA・制御機器の大きな役割といえる。
(ものづくり・Jp株式会社 オートメーション新聞 会長 藤井裕雄)