月1度の掲載である本コラムは第1回から8年以上の月日が過ぎ去った。 8年間の間に中小製造業を取り巻く環境は激変し、とくに『人手不足』問題は深刻さを増している。101回目の今回は、人材不足の特効薬とも言える『自動化テーマ』に焦点を絞り、これからの連載テーマとしたい。 幸いにして、AI(人工知能)やRPA(ソフトロボット)、そして協働ロボットなど、第4次産業革命と呼ばれる『デジタルインベーション』の進歩は目覚ましく、これらの最先端技術を中小製造業が活用できる地合いが整ってきている。この点に注目し、中小製造業の自動化テーマを深掘りしていきたい。
筆者の専門領域は精密板金業界である。精密板金業界は、日本を代表する中小零細企業の集積的産業を形成しているが、『稼ぐ力』が強く、将来に渡る成長も確信される魅力的な業界である。 精密板金業界の『稼ぐ力』は、多品種少量生産・短納期を背景に、職人に依存する『ものづくり』が源泉である。原価構成を見ると、材料費や購入品の占める比率は20%以下と低く、非常に付加価値の大きい業界であることがわかる。このため、機械の償却原価を大きくすることができ、1億円、2億円といった超高額機械が飛ぶように売れているのも特筆すべき業界の特徴である。一見、順風満帆でなんの心配もいらない業界に見えるが、潜在する課題は深刻であり、業界発展の大きな障害となっているのも現実である。その深刻な課題とは、『人手不足』である。精密板金企業に就職し、製造現場の作業員として働く意志を持つ若者はほとんどいない。労働者の人手不足は深刻の極限に達しているが、後継者や経理などホワイトカラーの人手不足も深刻である。このためにM&Aや廃業が相次ぎ、精密板金業界での総企業数は毎年縮小の一途を辿っている。現場熟練工の老齢化スピードは加速度的であり、早急に手を打つ必要性がある。この深刻な『人手不足』克服が必須であることは、すべての経営者が十分理解しており、 その打ち手も盛んに議論されている。その有力な打ち手の一つは、現場をロボット化することである。とくに、産業用ロボットに代わって「協働ロボットの活用」が注目されている。 経団連や日本政府は、『人手不足』の対抗策として、外国人労働者の活用を推進しているが、外国人労働者を使って製造業が強くなった国はどこにもない。
今年7月、東京ビッグサイトで『MF−TOKYO2023 (プレス・板金・フォーミング展)』 が開催された。4年ぶりのリアル開催であったが、入場者数は前回を割り込み、日本の製造業の劣化を象徴する展示会となった。お世辞にも褒められたイベンではなかった。主催者のモチベーションも感じられず、大手機械メーカーは巨大ブースを構えてはいるものの、目立ったイノベーションもなく、心踊らせる新商品・新技術は皆無と言ってよい。その中で特筆すべき明るい話題は、「協働ロボット」の出展が花開いたことである。中小の出展ブースの中で、あちこちに協働ロボットが展示されており、前回の展示会との大きな相違点である。 従来の産業用ロボットは出力が非常に大きいものが多く、隔離した大規模設備となるのが普通であることから、大企業の大量生産に向いており、中小製造業での導入事例は少ない。一方で、協働ロボットとは、人と同じ空間で一緒に作業を行えるロボットであり、小型・ 軽量・省スペースで運用が可能であり、大がかりな安全システムが不要である。 多品種少量生産・短納期が状態化されている中堅・中小製造業に極めて有益なロボットで あると言える。日本政府も10年近く前の15年にロボット新戦略を発表し、日本がロボット王国を目指すことを明確化したが、以降大きな流れが起きずに今日に至っている。協働ロボットは明らかに海外勢メーカーが優位である。特にシェア第2位の台湾・TMロボットは、非常に魅力あるロボットで、中堅・中小製造業での多くの工程(溶接・検 査・バリ取り等)での応用が可能である。日本の大手ロボットメーカーも揃って協働ロボットに力を入れており、選択の幅は広がってきた。
23年は、中堅・中小製造業にとって協働ロボット元年である。 協働ロボットなくして未来のものづくりは考えられない。次回は、協働ロボットとソフトの連携や、中堅・中小製造業が協働ロボットを導入する際の留意事項などを寄稿する。
◆高木俊郎(たかぎ・としお)
株式会社アルファTKG社長。1953年長野市生まれ。2014年3月までアマダ専務取締役。
電気通信大学時代からアジアを中心に海外を訪問して見聞を広め、77年にアマダ入社後も海外販売本部長や欧米の海外子会社の社長を務めながら、グローバルな観点から日本および世界の製造業を見てきた。