猛暑の中、国際経済の潮目が変わる「衝撃的なニュース」が飛び込んできた。約48兆円の負債を抱える中国の不動産大手「恒大集団」が8月17日、ニューヨークの裁判所にアメリカ連邦破産法15条適用を申請した。適用されればアメリカ国内に持つ資産はいったん保護されるので、資産保護が目的との見方が強い。中国国内で破産申請をしても裁判所が受け付けないので、中国では実質的な破産は起きないが、このニュースは長年燻ってきた中国経済崩壊の明確な顕在化である。鄧小平の経済改革以来、順調な経済成長を続けた中国の「歴史的な変化点」であることは明白である。苦境に陥っている中国の不動産企業は恒大集団だけではなく、最大手の「碧桂園」は8月10日、今年前半の最終利益が1兆円前後の赤字に転落する見通しだと発表した。 『資金調達で深刻な困難に直面している』としており、GDP(国内総生産)の3割を占める中国不動産業界はバブル崩壊に直面している。また、コロナの影響で膨大な中小企業が消滅し、若者の失業率はうなぎのぼり。政府発表でも20%を超えており、実質的には50%以上との声もある。大学を卒業しても仕事がない。これが中国の実態である。
この影響が世界経済にどんな影響を与えるのか? といった未来予測の話題で沸騰しているが、日本の製造業に与える影響は極めて軽微であると筆者は考えている。特に筆者の関わり深い「精密板金業界」では、『輝かしい未来が待っている』といっても過言ではない。日本の製造業に『大いなる復活の時がやってきた』といったら不謹慎であろうか?
失われた30年と比喩されるバブル崩壊以降の日本経済を苦しめた要因は「円高」と「中国・韓国」の台頭であった。グローバル主義を標榜する米国の口車に乗って、中国などに膨大な投資を行なった結果、人材・技術・資金を中国・韓国に吸い取られ、モジュール生産方式などと称される日本の差別化が生かされない製造形態との競争敗戦は、白物家電業界の惨敗など、多くの実例があり、周知の通りである。つい先程まで、『一人あたりGDPで日本を追い越した』と豪語する韓国も、修羅場の経済衰退に陥っている。IMF(国際通貨基金)は、韓国経済予測を連続で下げ続け、先進国カテゴリーから韓国を除外した。その理由は、GDPの30%以上を輸出に依存し、特に中国との政治経済依存を強めてきた韓国に幕が引かれた結果である。 我が国は、日本からの輸出依存は少なく、内需依存の国である。日本が輸出大国などとの認識は大間違いである。ロボットや工作機械、半導体製造装置など、中国輸出に依存する業界もあるが、俯瞰的に眺めれば、日本の製造業に与える影響は軽微である。
不謹慎ではあるが、中国の経済衰退は『吉報』『福音』とも言える。日本から中国に進出した企業も、揃って中国から撤退を急いでいる。その数1000社以上といわれ、30年ぶりの日本製造業再起動のチャンスである。リショアリング(製造の国内回帰)が加速するのは明白である。日本には明るい環境があるのに、日本の報道機関・大手メデイアは、いつのまにか『自虐的』で『悲観的』な報道に終始する傾向が強い。日本中にネガティブ思考が蔓延しているのは、非常に残念である。
中国バブル崩壊によって、『日本が再び製造王国として再起動する地合いが整ってきた』 と言え、決して諸手を挙げて喜べるほど単純ではない。 その最大の課題は人手不足である。単に『労働人口が減っている』、『高齢化がすすみ、若者が採用できない』といった直接的課題もさることながら、近年の労働者の『勤労意欲の低下』が重要問題である。政府主導で推進してきた『働き方改革』によって失われたものは小さくない。『働き方改革』は過剰労働などの罪悪的状況の改善にはつながったものの、日本が古来より育んだ『労働の美徳』を奪い去ったのも事実である。テレワーク奨励の後遺症も大きい。 日本は労働を美徳とする価値観をもっている。ところが、欧米文化を支えるキリスト教では、労働は罪悪であり、日本には古来文化とは相容れない。
働き方改革によって、日本の価値観が崩壊しないことを祈っているが、日本の中小製造業には救世主と言える新技術が台頭している。救世主の新技術は「協働ロボット」である。協働ロボットは、人と協働し『人は人らしく』『人から単純労働を開放する』最高のソリューションである。 協働ロボットには、『ボトムアップIoT』と『ネットワークシステム』が必須である。能力ある熟練工がロボットに加工を教える(ダイレクトティーチング)。その後の単純リピート加工(ティーチングプレイバック)が、熟練工のノウハウに従って協働ロボットが自動化作業する。ボトムアップIoTの究極である。中小製造業にとって協働ロボットの活用は、事業継続と発展の必需品であるが、協働ロボット導入のためにはネットワークシステムが必須であり、中小製造業のDX化実現が 前提条件となる。 次稿よりこの内容を詳報する。
◆高木俊郎(たかぎ・としお)
株式会社アルファTKG社長。1953年長野市生まれ。2014年3月までアマダ専務取締役。
電気通信大学時代からアジアを中心に海外を訪問して見聞を広め、77年にアマダ入社後も海外販売本部長や欧米の海外子会社の社長を務めながら、グローバルな観点から日本および世界の製造業を見てきた。